タイムカードを開示請求する方法は? 会社が開示しない場合の対処法
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会社に対して未払いとなっている残業代を請求しようとする場合、正確な残業時間を把握するためにもタイムカードなどの記録を確認する必要があります。
しかし、会社の保有している過去のタイムカードを従業員が自由に確認することは難しいでしょう。それでは従業員は、会社に対してタイムカードなどの資料を開示するように請求することができるのでしょうか。また、会社には開示する義務があるのでしょうか。
この記事では、タイムカードを開示請求する方法や、会社が開示に応じない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、会社にタイムカードの開示義務はある?
まず、会社側にタイムカードの開示義務について直接定めた法律はありません。タイムカードの作成義務についても同様です。
しかし、労働基準法第109条には、「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない」と規定されています(ただし、経過措置として当分の間、保管期間は3年間とされています。同法第143条第1項)。
そして厚生労働省はガイドラインにおいて、労働基準法が労働時間についての規定を設けていることから、会社側には労働時間を把握して労働時間を適正に管理する義務があることを明らかにしています(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」より)。
そのうえで会社が労働時間を適正に把握するためには、以下のような措置を講じる必要があるとしています。
まず、「始業・終業時刻の確認および記録」として、会社は労働時間を適正に把握するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認して記録する必要があります。
そのうえで「始業・終業時刻の確認および記録の原則的な方法」として、以下のいずれかの方法によることが要請されています。
- 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
したがって、会社はタイムカードなどの客観的な記録によって始業と終業時刻を適正に把握するように努めなければならず、そのタイムカードなどの記録は「5年間」(当分の間は3年間)保管しなければならない、ということになります。
では、記録された記録を開示してもらうことはできるのでしょうか。この点について、労働契約の付随義務として会社にはタイムカードの開示義務があることを認めた裁判例もあります。
同裁判例は、「使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のないかぎり、保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負う」と判示していることが参考になります(大阪地方裁判所平成22年7月15日判決)。
2、タイムカードを開示請求する方法
残業時間について、会社側と従業員の間で争いがある場合、従業員側が残業時間に関する主張・立証を行わなければなりません。
従業員は、以下のような方法で会社に対してタイムカードの開示を請求することが考えられます。
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(1)内容証明郵便で請求する
まず、内容証明郵便を送付し、会社に対して、タイムカードの開示を請求していくことが考えられます。
従業員から(場合によっては代理人弁護士名義で)内容証明が送られてきた場合には、会社も素直にタイムカードの開示に応じる可能性があります。
なお、通常、開示請求と同時に、未払いとなっている残業代の請求も内容証明で行います。
タイムカードの開示を受けていない段階では残業代の金額はわかりません。それでも、残業代を「請求」する理由は、時効の完成を猶予させるためになります。
すなわち、残業代請求には時効がありますが、時効期間満了前に「催告」を行えば、催告があったときから6か月間は時効の完成を猶予することができます。そして、会社に未払いの残業代を支払うように裁判外で請求することは、民法上の「催告」にあたります。
残業代請求を内容証明郵便によって行う理由は、会社に対する請求を行ったこと、会社が祖の請求を受けたことを客観的に記録しておくためとなります。
「内容証明郵便」とは郵便物の内容について、いつ、どのような内容のものを、誰から誰にあてて差し出したかということを、差出人が作成した謄本によって証明するものです。
この内容証明郵便に配達証明を付すことで相手方に到着した日を記載したハガキが届き、このハガキによって郵便物が配達された事実を証明することができます。
そのため、あとから会社との間で「請求した・していない」の水掛け論を回避することができるのです。 -
(2)労働基準監督署に相談する
会社が未払いの残業代を支払わない場合には、労働基準監督署に相談することができます。
労働基準法第104条には、「事業場に、この法律…に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」と規定しています。
したがって、違法な残業代の未払いトラブルがある場合には労働者の権利として、労働基準監督官に申告することが認められています。
労働基準監督署の協力が得られれば、違法な未払い状態が解消されたり、タイムカードなど必要書類を確保してくれたりする可能性があります。
実際に未払い残業代トラブルに関して労基署に動いてもらうためには、「相談」ではなく「申告」を行う必要があります。具体的には、「会社は労働基準法第37条の割増賃金の支払いを守っていないため、第104条に基づく申告をします」などと伝えることがポイントです。
3、会社がタイムカードを開示してくれない場合の対処法
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(1)労働審判、訴訟を提起する
会社によっては、任意での開示に応じず、残業代も払おうとしない企業も存在しています。
そのような場合には、労働審判を申し立てることになります。
労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行う手続きで、会社と個々の従業員が抱えている労働トラブルを迅速・適正・実効的に解決するために設けられている制度です。
原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、比較的短期間での解決が期待できます。
労働審判委員会は、まず調停という話し合いによる解決を試み、話し合いがまとまらない場合には、審理の結果認められた当事者間の権利関係と手続きの経過を踏まえ、事案の実情に即した審判を下します。
労働審判に不服のある当事者は、異議申立てをすることができます。
適法な異議申立てがなされた場合は、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。
訴訟に移行すれば、原告である従業員と、被告である会社が、それぞれの主張立証活動を行い、最終的には、裁判所が判決という形で残業代の支払いを命じることになります。
タイムカード等残業代に関する記録がなければ正確な残業代を算定することは困難ですので、通常裁判所は、会社に対して、これら記録を提出するよう求めていくことになります。被告がこれに応じない場合には、後述する文書提出命令で開示を命じる決定を出すこともあります。 -
(2)証拠保全手続き
会社がタイムカードを開示しない場合、訴え提起前における証拠収集処分の制度を利用することも考えられます。
この制度は、訴えの提起を予告する通知(予告通知)を行い、「立証に必要であることが明らかな証拠」で「自ら収集することが困難である」ものについて、裁判所に対して文書の送付嘱託などの処分を申し立てるというものです(民事訴訟法第132条の4)。 -
(3)文書提出命令
労働トラブルが訴訟にまで発展した場合には、訴訟手続きの中で文書提出命令を申し立てることもできます。
裁判所は、当事者の申し立てがある場合、相手方に文書の提出を命じる決定を出すことができます(民事訴訟法第223条1項)。
会社に対して訴訟を提起して残業代の支払いを請求する場合、タイムカードなどによって実際に労働した時間や日数を証明する必要があります。
このような場合、上記の文書提出命令を申し立てることで会社が保有しているタイムカードを提出させることができます。
4、タイムカードを開示請求する際の2つのポイント
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(1)タイムカード以外の証拠も開示請求する
未払いの残業代を請求する場合、タイムカード以外にも重要な証拠を会社が保有している場合があります。
労働トラブルでは、会社側の方がたくさんの証拠を保有しているケースが多いため、タイムカード以外の重要な証拠についても一緒に開示請求することがポイントです。
残業代請求事件で開示請求すべき証拠としては、以下のようなものがあります。- 賃金台帳
- 就業規則、賃金規程
- 出勤簿
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(2)タイムカードがない場合にも同様な証拠を開示請求する
前述のようにタイムカード自体の作成・保管は法律上の義務ではありません。会社から「タイムカードは存在していない」と反論されることがありますが、そのような場合でも労働時間が記録された何らかの証拠について開示請求すべきでしょう。
会社に対して「具体的にどのような方法で従業員の労働時間を把握しているのか」について質問し、その記録について開示請求をしていくことになります。
なお、何一つ労働時間に関する記録が存在しない場合、当事者の証言をもとに、労働時間を認定することもあります。本来であれば客観的な記録から労働時間は正確に算定されるべきですが、会社側が上記措置を怠っている場合に、それが原因で残業代請求ができないとなると不合理ですので、そのような証言に基づく認定もやむを得ないものといえるでしょう。
5、まとめ
会社にはタイムカードを開示する義務は法定されていませんが、タイムカードの開示を拒否する場合、会社が労働者の労働時間を適切に把握・管理できていない可能性が高まります。
労働基準法の義務に違反してないように労務管理をしているというのであれば、客観的な資料によって労働者の労働時間が記録・管理されているはずです。
会社が不当に開示を拒絶する場合には、裁判手続きなどを活用して残業代を請求していくことになります。
そして、弁護士に依頼すれば、適切な請求・書面の作成・裁判手続きの対応などについてアドバイスおよびサポートを受けることができます。
ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスには、労働トラブルの解決実績が豊富な弁護士が在籍しておりますので、一度ご相談ください。
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