代休と有休のどちらを優先するべきか。運用する際の注意点
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- 代休
- 有給
従業員に休日出勤をしてもらった場合には、その代わりに別の労働日を休日にするという扱いをしている企業は少なくないでしょう。
会社からの求めに応じて従業員が代休を取得してくれればよいですが、従業員から「代休ではなく有休を取得したい」といわれた場合には、どのように対応すればよいのでしょうか。また、代休制度を運用する場合には、どのようなルールを定めておくとよいのでしょうか。
今回は、企業の経営者や人事担当者に向けて、代休と有休の違いおよび代休制度を運用する際の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、代休と有休は何が違う?
そもそも代休と有休ではどのような違いがあるのでしょうか。以下では、代休と有休の定義やそれぞれの相違点について説明します。
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(1)代休とは
代休とは、従業員に休日労働をさせた代償として、後日、別の労働日を休日にすることをいいます。
従業員が休日出勤をした場合には、代休を与えなければならないと考えている方も多いですが、実は、代休は、法律上の制度ではありません。そのため、代休を与えるかどうかは、企業が自由に定めることができるものといえます。
ただし、労働基準法によって、週に1回または4週に4回の法定休日を従業員に対して与えることが義務付けられています。そのため、休日出勤をしたことによって、法定休日の付与に違反する状態となった場合には、労働基準法違反となってしまいますので注意が必要です。 -
(2)有給とは
有給とは、正式には「年次有給休暇」といい、仕事を休んでも賃金が支払われる休暇のことをいいます。
有給は、労働基準法によって定められている休暇であり、6か月間継続して勤務し、かつ、出勤率が8割以上である場合には当然に発生する休暇です。正社員だけでなく、パート・アルバイト、派遣社員などの非正規労働者についても、上記の条件を満たしている場合には、有給を付与しなければなりません。 -
(3)代休と有休の違い
代休と有休はいずれも、所定の労働日に仕事を休むという点で共通する制度ですが、以下のような違いもあります。
- ① 賃金が発生するかどうか
有給は、仕事を休んだとしても賃金が支払われますが、代休の場合には、仕事を休んだ日の賃金は支払われません。 - ② 休日を取得させる義務があるかどうか
有給は、従業員から取得の希望があった際に、会社が時季変更権を行使できるケースでなければ、従業員が希望する日に取得させる義務があります。
これに対して、代休を取得させるかどうかは会社のルールとして定められるものであって、法律上取得が義務付けられているものではありません。 - ③ 休日の発生条件
有給は、6か月間継続して勤務し、かつ、出勤率が8割以上である場合に発生する権利であるのに対して、代休が発生するかどうかは会社が定めるルールによる、という違いがあります。
すなわち、会社に有給に関する制度がなかったとしても、有給は法律上当然に発生する権利ですので、会社は有給制度がないことを理由として労働者からの有給申請を拒むことはできません。 - ④ 取得期限の有無
有給には、期限があり、有給が付与されてから2年を経過すると時効によって権利が消滅してしまいます。これに対して、代休には、法律上の期限は設けられていませんので、会社のルールの定め方次第では、2年を経過しても代休を取得することができます。
- ① 賃金が発生するかどうか
2、給与の考え方|代休と有休のケース
代休と有休では、賃金が発生するかどうかの違いがありますが、従業員の給与についても、代休と有休で以下のように変わってきます。
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(1)休日出勤後に代休を取得した場合
法定休日に休日出勤をして、その後、代休を取得した場合には、振替休日とは異なり、休日出勤について法定の割増率によって割増をした休日出勤手当を支払う必要があります。他方、代休を取得して、労働日に休んでいますので、その日の賃金は控除されることになります。
たとえば、1時間あたりの賃金が1500円である従業員が、日曜日(法定休日)に8時間の休日労働を行い、同じ週の水曜日に代休を取得したとします。この場合の賃金は、以下のようになります。休日出勤手当:1500円×8時間×135%=1万6200円
代休日の賃金控除:1500円×8時間=1万2000円(この額が控除されます)
すなわち、休日出勤後に代休を取得した従業員には、普通に働いた場合に比べて、休日出勤手当と代休日の賃金控除の差額分である4200円多く賃金を支払う必要があります。
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(2)休日出勤後に代休ではなく有休を取得した場合
では、休日出勤後に代休ではなく、有休を取得した場合はどうなるのでしょうか。
上記と同様の例で考えると、有給を取得したとしても、休日出勤をしたことへの対価である休日出勤手当の支払いは必要になりますので、その点は同じです。しかし、代休取得日が有給になることによって、休日であっても賃金が発生しますので、その支払いが必要になってきます。この場合の賃金は、以下のようになります。休日出勤手当:1500円×8時間×135%=1万6200円
有給取得日の賃金:1500円×8時間=1万2000円
すなわち、休日出勤後に代休ではなく有休を取得した場合には、休日出勤手当と有給取得日の賃金の双方を支払う必要がありますので、普通に働いた場合に比べて、1万6200円多く賃金を支払う必要があります。
3、有給の取得希望を拒否できるのか
従業員から有給の取得希望があった場合に、会社はそれを拒否することができるのでしょうか。
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(1)原則として有給取得を拒否できない
有給は、従業員の権利ですので、従業員から有給取得の請求があった場合には、原則として会社はそれを拒否することができず、従業員が希望する日に有給を取得させなければならないのです。
そのため、会社が従業員に対して、休日出勤の代償として代休を取得してほしいと伝えた際に、従業員から「代休ではなく有休を取得したい」という申し出があった場合には、代休ではなく有休を取得させる必要があります。 -
(2)時季変更権を行使することによって希望日の有給取得を拒める場合がある
上記の通り、従業員からの有給申請を会社は拒否することができないのが原則です。しかし、従業員の希望する日に有給を取得させることによって、事業の正常な運営に支障が生じる場合には、例外的に従業員が希望した日とは別の日に有給を取得させることができます。これを「時季変更権」といいます。
会社が時季変更権を行使するのは、あくまでも例外的な場合になりますので、以下の諸要素を踏まえて事業の正常な運営を妨げるおそれがあるかどうかが判断されます。- 事業の規模
- 事業の内容
- 当該労働者の担当業務の内容、性質
- 業務の繁閑
- 代替要員を確保の難易
- 労働慣行
たとえば、繁忙期に複数日の有給申請があった場合には、会社が時季変更権を行使することによって、労働者が希望する日の有給取得を拒むことが考えられます。ただし、有給の取得自体を拒むことはできませんので、事業の正常な運営に支障がないと考えられる別日に有給を取得させる必要があります。
4、会社が定めておくべきルール
代休を運用する際には、以下のようなルールを定めておくべきと思われます。
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(1)代休取得の申請方法
代休制度を設ける場合には、どのような方法で代休申請を行うのかをルール化しておくようにしましょう。たとえば、以下のような事項を記載した定型のフォーマットを作成しておけば、代休の管理がしやすくなるといえるでしょう。
- 代休申請の年月日
- 提出先の宛名
- 申請者の氏名
- 休日出勤日
- 代休希望日
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(2)時間単位での代休取得の可否
代休を取得する場合には、1日単位にするだけでなく、半日単位や時間単位での取得を認めることも可能です。時間単位での代休取得を認める場合には、その旨をルール化しておき、従業員に対して周知しておくことが大切です。
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(3)代休の取得期限
有給とは異なり代休には法律上取得期限は設けられていません。しかし、休日出勤をした代償として代休を取得させるということは、心身ともにリフレッシュし、労働意欲を向上させるという効果がありますので、積極的に代休申請をしてもらうことが望ましいといえます。
そこで、就業規則などで代休の取得期限を設けることによって、代休取得を促すようにするとよいでしょう。期限内に代休取得をしない場合には、会社側が時季を指定して代休を取得させるという扱いをすることもおすすめです。
5、まとめ
従業員に休日出勤をさせた場合には、なくなった休日を保管するものとして、代休を取得させることが望ましいといえます。代休は、法律上の制度ではありませんが、長時間労働を回避して、従業員のモチベーションを向上させるためにも必要な制度ですので、会社内できちんとルール化して運用していくことが大切です。
また、代休と有休は以上のように似て非なるものです。代休と有休の区別が曖昧になってしまい、法律上定められた有給に関する規定を無視(法律に反した有給に関するルールを社内で作ってしまうなど)してしまうと労基法違反となってしまう可能性がありますので、今一度、両制度について理解をしておくべきと思われます。
代休の運用や有休の扱いでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています