仮処分命令とは? 具体的な申し立て方法や手続きの流れについて

2022年11月07日
  • 一般民事
  • 仮処分命令
仮処分命令とは? 具体的な申し立て方法や手続きの流れについて

裁判所が公表している司法統計によると、令和2年に横浜地方裁判所に申し立てのあった仮処分命令申し立て事件の数は、244件でした。

知人や友人に貸したお金が返ってこないという場合には、最終的に裁判を起こして解決を図ることになります。しかし、裁判で判決が出るまでには、相当の時間を要するので、判決が出るまでに相手の経済状況が悪化して、勝訴判決を得たとしてもお金の回収ができない事態が生じる可能性があります。

このようなリスクを回避する手段として仮処分命令という手続きがあるのです。相手の資産状況や経済状況を見極めて、仮処分命令を利用することによって、債権回収の可能性がアップすることを期待できます。

今回は、仮処分命令の要件とその申し立て方法などについて、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。

1、仮処分命令とは

仮処分命令とはどのような制度なのでしょうか。以下では、仮処分命令の概要とその要件について説明します。

  1. (1)仮処分命令の概要

    仮処分命令とは、裁判の結果を待っていては、債権者に不利益が生じる可能性がある場合に、債権者の権利を保全することを目的として、裁判所が暫定的な措置を認める処分のことをいいます

    当事者間に何らかのトラブルが生じた場合、まずは当事者同士の話し合いで解決を図ることになりますが、解決が困難な場合には、裁判所に訴訟を提起することになります。しかし、訴訟提起から判決の言い渡しまでは、相当の期間を要します。

    そのため、裁判に負けそうだと感じた相手が、判決直前に財産を処分してしまったり、隠匿してしまったりすれば、勝訴判決を得たとしても、相手の財産を差し押さえることができなくなってしまいます。
    そこで、このようなリスクを回避するために、民事保全法に基づく仮処分命令が利用されるのです。

  2. (2)仮処分命令の要件

    裁判所に仮処分命令を発令してもらうためには、以下の要件を満たす必要があります。

    1. ① 被保全権利の存在
      仮処分命令を出してもらうためには、仮処分によって保全される権利が存在していることが必要です。被保全権利の存在については、裁判のように厳格な立証までは必要とされず、迅速な審理の観点から疎明で足りるとされています。

      借用書や契約書などから権利の存在が一応確からしいと認められる場合には、被保全権利の存在が認められます。

    2. ② 保全の必要性
      保全の必要性とは、仮処分命令を出されなければ将来強制執行ができなくなる可能性や、強制執行にあたって著しい支障が生じるおそれがある状況のことをいいます。保全の必要性は、債務者の負債や資産状況、債務者の態度、信用状態などを総合的に考慮して判断されます。

      たとえば、債務者の財産を差し押さえておかなければ、財産処分や隠匿によって将来権利の実行ができなくなるおそれがある場合に、保全の必要性が認められるでしょう


2、仮処分の種類について

仮処分命令には、「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」の2つの種類があります。

  1. (1)係争物に関する仮処分

    係争物に関する仮処分は、金銭債権以外の権利を保全することを目的とする手続きです。係争物に関する仮処分は、争われている権利について、目的物の現状維持を命じることによって、権利の保全を行います。

    なお、係争物に関する仮処分は、「処分禁止の仮処分」、「占有移転禁止の仮処分」の2つがあります。

    1. ① 処分禁止の仮処分
      処分禁止の仮処分は、不動産の所有権移転登記や抵当権設定などの処分を禁止する仮処分です。たとえば、不動産の返還を求めている場合において、裁判中に不動産が第三者の手に渡ってしまうと、裁判で勝ったとしても第三者から不動産を取り戻すことができなくなります。

      そこで、債務者に対して処分を禁止することによって、不動産の現状維持を図ることができるのです。

    2. ② 占有移転禁止の仮処分
      占有移転禁止の仮処分は、建物などの占有を第三者に移転することを禁止する仮処分です。たとえば、建物の明け渡しを求める場合において、裁判中に賃借人が第三者に建物を占有させてしまった場合に、賃借人に加えて第三者に対しても裁判を起こす必要が生じます。

      このような事態を防止するために利用されるのが占有移転禁止の仮処分です。


  2. (2)仮の地位を定める仮処分

    仮の地位を定める仮処分は、本案訴訟前に債権者に対して仮の地位を認めることによって権利の保全を図ることを目的とする手続きです。仮の地位を定める仮処分は、仮差し押さえと係争物に関する仮処分以外に関する手続きのことなので、対象となる手続きは非常に広い範囲となります。

    たとえば、インターネット上の誹謗中傷記事の削除、不当解雇、建築工事の禁止などにおいて、仮の地位を定める仮処分の手続きが利用されます。

3、仮処分申し立ての手続き・流れ

仮処分命令の申し立てをする場合には、以下のような手続き・流れで行います。

  1. (1)仮処分命令の申し立て

    仮処分命令の申し立ては、仮処分命令申立書に、被保全権利の存在、保全の必要性についての具体的な事実を記載して、証拠となる疎明資料を添付して、裁判所に提出します。
    また、申し立ての際には、手数料として2000円分の収入印紙と郵便切手を納めなければなりません。

  2. (2)債権者面接

    仮処分命令の審理は、裁判のような口頭弁論を行うことなく進められます(民事保全法3条)。そのため、仮処分命令の審理は、書面による方式または当事者の審尋による方式で行われます

    当事者審尋が実施される場合には、まずは債権者面接が行われます。債権者は、裁判所に出向き、裁判官からの質問に答えるとともに、不足書類などがある場合には、追加資料の提出を求められることになります。

  3. (3)債務者審尋

    保全手続きを進めていることが債務者に知れてしまうと、保全命令が出る前に財産を処分されるリスクがあります。保全手続きでは密行性が求められますので、原則として債務者審尋が行われることはありません。

    しかし、仮処分については、債務者の権利の制限を伴いますので、債務者の主張も聞くために債務者審尋が行われます。債権者の場合と同様に、債務者も裁判所に出向いて、裁判官からの質問に回答し、主張があれば聞き入れられます。

  4. (4)担保提供

    審理の結果、裁判官が仮処分命令を出すべきであると判断した場合には、申立人に対して、担保の提供を求めるケースがあります。仮処分手続きでは、裁判のように時間をかけてしっかりと審理を行うものではなく、迅速な審理によって暫定的な処分を定める手続きです。

    そのため、仮処分命令に誤りがあった場合には、権利を制限された相手方の利益を害する可能性があるのです。そこで、相手方が被る可能性のある損害をあらかじめ担保するために、申立人は担保金を供託しなければなりません。

  5. (5)仮処分命令の発令

    仮処分命令を出す要件を満たしていると裁判官が判断し、申立人から担保金の供託がなされた段階で、仮処分命令が発令されます。

4、仮処分を申し立てるタイミングは?

仮処分命令はどのタイミングで申し立てればよいのでしょうか。

  1. (1)一般的には本訴提起前のタイミングで申し立てをする

    仮処分命令は、あくまでも裁判所が定める暫定的な措置ですので、権利の実現を図るためには、その後本訴を提起する必要があります。

    たとえば、賃料未払いによる建物の明け渡しを実現するためには、占有移転禁止の仮処分命令を得ただけでは、賃借人の占有移転を禁止する効果しかなく、明け渡しは認められません。そのため、仮処分命令の申し立て後に、建物明け渡し請求訴訟を提起して、建物の明け渡しを求めていくことになります。

    このように、仮処分命令は、本訴提起前に申し立てをするのが一般的ですが、本訴提起と同時または本訴提起後に仮処分命令を申し立てることも可能です

  2. (2)仮処分命令発令後に本訴を提起しないとどうなるの?

    仮処分命令は、その後の本訴提起を予定した手続きですので、原則として本訴の提起が必要です。仮処分命令の申立人が供託した担保金を取り戻すためにも本訴提起をして勝訴判決を得ることが必要になるので、そういった意味でも本訴提起は必要といえます。

    ただし、インターネット上の誹謗中傷記事の削除を求める仮処分命令が出された場合には、仮処分命令を受けた相手方は、任意で削除に応じることが多いため、その後の本訴提起が不要となるケースもあるのです。

    なお、仮処分命令発令後、本訴提起をせずに放置をしていると、仮処分命令の相手方は権利を制限された不安定な状態が続くことになるので、相手方の対抗手段として「起訴命令申立」というものがあります。

    債務者から裁判所に起訴命令の申し立てがなされた場合には、裁判所は債権者に対して、一定期間内に訴訟提起をするように命じます。債権者が定められた期間内に訴訟提起をしない場合には、仮処分命令が取り消されることになります

5、まとめ

話し合いで解決することができないトラブルについては、裁判を起こす前に仮処分命令などの民事保全の手続きを利用したほうがよいケースもあります。相手の経済状況や態度などをよく検討することなく訴訟提起に踏み切ってしまうと、場合によっては、裁判中に財産を処分されるなどのリスクが生じる可能性もあります。

仮処分命令の申し立てや本案訴訟の提起などは、個人で行うことは容易ではありませんので、適切に手続きを進めたいという方は、弁護士に相談することがおすすめです。仮処分の申し立てを検討される場合は、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています