離婚と除籍謄本の関係について弁護士が解説
- 離婚
- 除籍謄本
- 離婚
横須賀市が公表している人口動態に関する統計資料によると、令和元年の横須賀市内の離婚件数は681件でした。前年よりも36件減少していますが、同様に人口も減少していますので、離婚率(人口千対)でみたときには、そこまで大きな減少とはいえません。
離婚をした後に戸籍謄本にどのような記載がなされるのか気になるという方も少なくないでしょう。離婚した事実については戸籍謄本に記載されることになりますが、離婚後に転籍をした場合には、戸籍謄本ではなく除籍謄本に記載されます。
離婚に伴って除籍や転籍が発生することも少なくありませんので、戸籍謄本と除籍謄本の違いを理解しておくことが大切です。今回は、離婚と除籍謄本の関係について、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、除籍謄本とは何か
除籍謄本とはどのような書類なのでしょうか。以下では、除籍謄本の概要と戸籍謄本との違いについて説明します。
-
(1)除籍謄本とは
除籍謄本とは、戸籍に記載されている人が全員いなくなった状態にある戸籍のことをいいます。戸籍には、親と子の2代までが記載されていますが、親の死亡や子どもの結婚などによって全員が戸籍からいなくなった場合には、当該戸籍は閉鎖され除籍謄本になります。
除籍謄本は、戸籍から誰もいなくなったとき(除籍されたとき)から150年間保存されます。そのため必要がある場合には、市区町村役場の窓口で、取得することが可能です。 -
(2)除籍謄本と戸籍謄本・改製原戸籍謄本の違い
戸籍というと一般的に「戸籍謄本」を指すので、こちらのほうがなじみのある方が多いでしょう。戸籍謄本とは、戸籍に記載されているすべて人の身分関係(本籍地、氏名、生年月日、親子関係、婚姻、離婚など)を証明する書類です。戸籍謄本は、現在の身分関係を証明する書類であるのに対して、除籍謄本は、過去の身分関係を証明する書類であるという違いがあります。
改製原戸籍謄本とは、戸籍法が改正されたことによって、古い様式の戸籍から、新しい戸籍の様式に書き換えが行われたのですが、この書き換え前の戸籍のことをいいます。
昔の戸籍は縦書き・手書きで非常に読みづらいものでしたが、平成6年の戸籍法改正によって、横書き・コンピューター化によるわかりやすい戸籍になりました。このような戸籍法改正で改製される前の、古い戸籍が改正原戸籍謄本と呼ばれる書類です。
身分関係の証明書としては、戸籍謄本が利用されますので、除籍謄本や改正原戸籍謄本が利用されるのは、主に相続手続きの場面になります。
2、離婚した際に除籍謄本をつくる場合
では、離婚した際に戸籍はどうなるのでしょうか。
離婚をした場合、戸籍の筆頭者については、現在の戸籍から変動はなく、戸籍の身分事項欄に離婚の事実が記載されます。これに対して、戸籍の筆頭者以外の配偶者については、以下のような戸籍の変動が生じることになります。
- ① 元の戸籍に戻る
離婚をした場合に、特別な手続きをしなければ、原則として婚姻前の戸籍に戻ることになるので、婚姻の際に氏を改めた場合は、離婚によって旧姓に戻ることになります。 - ② 新たな戸籍をつくる
離婚届の提出の際に、新戸籍編製の申し出をすることによって、元の戸籍ではなく新たな戸籍をつくることもできます。新戸籍編製の申し出は、離婚届の「婚姻前の氏に戻る者の本籍」欄にある「新しい戸籍をつくる」という部分にチェックを入れるだけで簡単にできます。
「離婚のときに称していた氏を称する旨の届」を提出し、新たな戸籍をつくることによって、離婚後も旧姓に戻ることなく婚姻時の氏を名乗ることが可能です。つまり、新たな戸籍をつくる場合には、旧姓と婚姻中の姓のどちらでも選択することができるのです。
なお、筆頭者ではない配偶者が元いた戸籍に戻ろうとしたときに、すでに戸籍に記載されている人が全員死亡しているか転籍してしまっている場合には、元いた戸籍に戻ることはできませんので、新たな戸籍をつくる必要があります。
3、離婚歴を隠したい場合は転籍を
離婚歴を隠したいという場合には「転籍」という手続きがおすすめです。
-
(1)転籍とは
転籍とは、本籍地を変更する手続きのことをいい、転籍をすることによって、戸籍に記載されている全員の本籍地が変更されることになります。転籍する際に、特に理由を求められることはありませんので、いつでも転籍を行うことができます。
なお、戸籍謄本を取得する場合には、本籍地の市区町村役場で取得しなければなりません。そのため、一般的には、引っ越しなどで現住所と本籍地が離れてしまうような場合において、住民票と一緒に、戸籍謄本を取得できるようにするために、転籍が行われることがあります。 -
(2)転籍によって離婚歴が隠せる理由
戸籍の筆頭者が離婚をした場合には、当該戸籍の身分事項欄に離婚の事実が記載されるので、戸籍謄本を取得すると離婚の事実が知られてしまいます。また、筆頭者以外の配偶者であっても、元の戸籍に戻った場合には、過去に戸籍を抜けたときの履歴が記載されるので、戸籍謄本の記載を確認すれば、離婚をして元の戸籍に戻ってきたということがわかってしまいます。
しかし、離婚後に、転籍によって本籍地を変更した場合は、新しい戸籍が作成されることになるので、新しい戸籍謄本には、過去の離婚歴が引き継がれることはありません。そのため、新戸籍では、過去の離婚歴や元配偶者に関する情報がすべて消えるので、過去の離婚歴を隠すことができるのです。
ただし、転籍をしたとしても、転籍前の戸籍は、除籍謄本や改正原戸籍謄本という形で残るので、完全に離婚歴を消去することができるというわけではありません。除籍謄本や改正原戸籍謄本を取得すれば、過去の離婚歴が明らかになる可能性があるという点には注意が必要です。
4、子どもの戸籍についての注意点
子どもがいる夫婦の場合には、離婚による子どもの戸籍についても注意が必要です。
-
(1)離婚と子どもの戸籍
子どもがいる夫婦が離婚をする場合には、離婚の際に子どもの親権者をどちらにするかを定めなければなりません。子どもは、親権者になったほうの戸籍に移ると考える方も多いですが、実は、親権者が誰であるかと子どもの戸籍がどちらになるかは別の問題です。
たとえば、戸籍の筆頭者が父、離婚によって母が新たに戸籍をつくり、子どもの親権者となった場合でも、自動的に、離婚によって子どもが母親の戸籍に入るということはありません。子どもの戸籍は、夫婦の離婚後も元の戸籍である父の戸籍に残ったままになります。 -
(2)子どもの戸籍を変更する場合には特別な手続きが必要
子どもと親権者の戸籍が別々であったとしても、親権者であることに変わりはないので、親権の行使自体には特に問題はありません。しかし、親権者である母親が離婚によって旧姓に戻る場合には、そのままでは子どもの姓と母親の姓が異なる状態になるので、日常生活を送るうえで不都合が生じる可能性があります。
このような場合には、子どもを父親の戸籍から母親の戸籍に入籍させるための、特別な手続きを行う必要があります。なお、母親が離婚後も婚姻時の姓を名乗る場合には、子どもと姓が異なるという不都合は生じませんが、母親の戸籍と子どもの戸籍は別々ですので、同じ戸籍にしたいという場合にも、以下の手続きが必要になります。- ① 子の氏の変更許可申し立て
子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に、「子の氏の変更許可」の申し立てを行います。申し立ては、本人である子どもが行いますが、子どもが15歳未満のときには法定代理人である親権者が代わりに手続きを行います。
子の氏の変更許可の申し立てをすると、裁判所の審判によって許可するかどうかが判断されることになります。通常のケースでは特に問題なく許可を受けることができ、裁判所への出廷も必要ありません。 - ② 入籍届
家庭裁判所から子の氏の変更許可が得られた場合には、子の氏の変更許可審判書の謄本を添えて、子どもの本籍地または届出人の住所地の市区町村役場に入籍届を提出します。入籍届が受理されると、母親と子どもが同じ戸籍に入ることになり、同じ姓を名乗ることができます。
- ① 子の氏の変更許可申し立て
5、まとめ
離婚に伴って、戸籍の変動が生じることになります。子どもがいる夫婦では、どちらが親権者になるかだけでなく、離婚後の子どもの姓や戸籍をどうするかについてもしっかりと検討する必要があります。
離婚の際には、親権、養育費、慰謝料、財産分与、面会交流などさまざまな取り決めが必要になってきます。有利な条件で離婚を進めるためには、専門家である弁護士のサポートが必要不可欠となります。離婚に伴う戸籍の問題はもちろん、離婚に関する問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています