「常習的脅迫罪」とは? 適用される可能性がある行為と処罰の内容
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「脅迫」は日常的に起こりうる犯罪行為です。
「脅迫罪」といえば一般的によく聞く罪名だと思いますが、「常習的脅迫罪」という罪名を聞いたことがあるという人は少ないのではないでしょうか。脅迫事件のなかでも、一定の条件を満たした場合には、「常習的脅迫罪」という、脅迫罪よりも重い刑罰が科さられるものが存在します。
本コラムでは「常習的脅迫罪」について、どのような犯罪なのか、脅迫罪との違いを踏まえ解説し、逮捕されてしまったときの刑事手続きの流れや解決法などを、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、「脅迫」とはどのような行為なのか?
一般的な会話に登場する「脅迫」と法律が扱う刑法上の「脅迫」は、同じようにみえて実は異なった意味をもっています。
まずは、常習的脅迫罪を説明するにあたって、前提となる刑法における「脅迫」とはどのような行為を指すのか解説します。
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(1)脅迫の意味
刑法における「脅迫」とは、相手方本人またはその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知する行為です。
したがって、「恋人が不幸になるぞ」「教え子がどうなってもいいのか?」などは本人や親族に対する発言ではないので脅迫には当たりません。
また、「脅迫」といえるためには、その害悪の告知によって、被害者が実際に恐怖を感じる必要はなく、一般の人を基準に考えて、恐怖を感じる程度の内容であれば脅迫にあたるとされています。
なお、「神仏が罰を与えるぞ」「頭上に雷が落ちるぞ」など、加害者の力によって左右することができない行為を告知しても脅迫にはならないとされています。 -
(2)脅迫の方法
法律上、脅迫の方法はとくに限定されていません。
対面や電話での発言、手紙、メールで送った文章はもちろんのこと、SNS・ブログ・動画投稿サイトなどに対する書き込みでも脅迫罪が成立する可能性はあります。
また、言葉や文章といった方法で明示する以外にも、殴りかかるようなそぶりを見せる等、挙動も脅迫にあたる可能性があります。
2、「常習的脅迫罪」とは? 適用される条件や刑罰
刑法における「脅迫罪」は上記の通りとなります。では、「常習的脅迫罪」とはどのようなものでしょうか。
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(1)常習的脅迫罪が定められている法律
「脅迫罪」は刑法に定められている犯罪ですが、常習的脅迫罪は「暴力行為等処罰に関する法律」という法律に定められている犯罪です。
この法律は、正しくは「大正十五年法律第六十号(暴力行為等処罰ニ関スル法律)」という名称で、大正時代からある古い法律です。
暴力行為等処罰に関する法律に定められている犯罪類型は、以下の七つです。- 集団的な暴行・脅迫・器物損壊等
- 凶器を示しておこなう暴行・脅迫・器物損壊等
- 数人が共同しておこなう暴行・脅迫・器物損壊等
- 銃砲や刀剣類を用いた傷害
- 常習的な暴行・脅迫・器物損壊等
- 不正な利益を得る目的でおこなう面会強請等
- 利益供与による犯罪の請託
上記行為は、いずれも刑法に規定された犯罪としても処罰することも可能です。
もっとも、これら犯罪は、特に重く処罰する必要性が高いものと言えます。
たとえば、集団的な暴行や凶器を使った暴行は、単独犯の素手による暴行よりもより悪質性が高いといえます。また、銃砲や刀剣類を用いた傷害行為も、武器を用いない傷害行為に比較して危険性が極めて高く、悪質であることは異論がないところでしょう。
このように、暴力行為等処罰に関する法律は、一定の犯罪累計について、刑法で規定された各種犯罪累計よりも、より重い罪として処罰することを可能にした特別刑法ということができます。
この法律ですが、もともとは過激な労働運動を防止する目的で制定され、時代の流れとともに学生運動の規制や暴力団関係者や暴走族などの取り締まりにも運用されてきたという歴史をもっているようです。 -
(2)常習的脅迫罪が適用される要件
常習的脅迫罪が適用されるのは、「常習として刑法第222条の脅迫罪を犯した」ときです。
「刑法第222条の脅迫罪」という箇所については上記「脅迫罪」で記載したとおりです。
そこで、ここでは特別な要件としての「常習として」がどのようなものを指すのか問題となります。
「常習として」とは、① 暴行・傷害・脅迫・器物損壊といった粗暴な罪を犯す習癖がある者が、② その習癖の発現として罪を犯すことを指します。
日ごろから、これらの罪にあたる粗暴な行為を繰り返し行う人、これらの罪の前科や前歴が複数ある人が、その習癖の結果として、相手本人やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対する危害を告知した場合には、刑法の「脅迫罪」ではなく、暴力行為等処罰に関する法律における「常習的脅迫罪」が適用される可能性が高くなります。 -
(3)常習的脅迫罪に科せられる刑罰
常習的脅迫罪の罰則は、3か月以上5年以下の懲役です。罰金刑の規定はありません。
これに対して、脅迫罪の罰則は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。
常習性が認められることで、刑期は上限が2倍以上になってしまいます。
また、懲役刑より軽い罪とされる罰金刑という選択肢がないことから、やはり、相当程度責任が重くなっています。
暴力行為等処罰に関する法律は、団体や多衆による集団的な犯罪行為について、刑法の規定よりも厳しく罰する規定を設けることで犯罪を抑止する、という目的で定められているものであり、そのことを踏まえると量刑が重くなるのは当然ではありますが、被告人にとって、「常習性」が認められるか否かは極めて重要な要素になってきます。
3、警察に逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
以下では、常習的脅迫罪の容疑で警察に逮捕されてしまった場合の、その後の刑事手続きの流れを解説します。
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(1)逮捕・勾留によって最大23日間の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、まず警察署の留置場に収容され、48時間を上限とした身柄拘束を受けます。
逮捕から48時間以内に検察官のもとへと送致されると、さらに24時間を上限とした身柄拘束を受けます。
ここまでが「逮捕」の効力による身柄拘束です。
つまり、逮捕されると、48時間+24時間=最長72時間にわたって社会から隔離されることになるのです。
最大72時間で逮捕の効力は消えますが、これで釈放されるわけではありません。
検察官が「勾留」の請求をし、裁判官がこれを許可すると、さらに「勾留」による身柄拘束を受けます。
逮捕された本人の身柄は警察へと戻され、以後は捜査機関による、取り調べなどの捜査が進めていくことになります。
一度目の勾留は最大で10日間ですが、さらに、捜査機関は、一度に限って10日以内の延長請求が可能であるため、勾留の期間は最長で20日間となります。
逮捕・勾留を合計すると、身柄拘束の期間は72時間+20日間=最大23日間となります。
自宅に帰ることも、会社や学校に行くことも許されず、携帯電話やスマートフォンなどで外部と連絡を取ることもできないため、本人にとってはさまざまな不利益が生じることになります。
なお、これは起訴「前」の話になります。起訴前の身柄拘束は最大23日間ですが、検察官によって起訴され公判請求がなされた場合には、引き続き、更に起訴「後」の勾留をすることができることになっています。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
検察官は、勾留が満期を迎える日までに、起訴または不起訴を判断します。
起訴とは検察官が刑事裁判を提起することであり、起訴・不起訴の判断をするのは検察官の専権です。
起訴されてしまうと、加害者の立場は、それまでの「被疑者」という立場から「被告人」という立場へと変わります。上記の通り、起訴後は被告人として勾留を受けることとなります。
被告人勾留にも一応の期限がありますが、刑事裁判が続いている間は何度でも延長が認められるため、長期の身柄拘束になることが多いというのが実情です。
なお、起訴後であっても保釈が認められれば身柄は解放されます。 -
(3)刑事裁判が開かれる
起訴から約1か月後に初回の公判が開かれます。
以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、とくに争う点がなければ3か月程度で判決が言い渡されるという流れが一般的です。
刑事裁判の最終回には有罪・無罪のいずれであるか、有罪の場合は法律が定める範囲で適当とされる刑罰が言い渡されます。
検察官が起訴した事件のほとんどは有罪判決が言い渡されているため、脅迫罪にあたる行為があったのが事実なら、無罪を期待することはあまり期待できません。
ただし、上記の通り、「常習として」といえるか否かは事案によります。脅迫行為が悪質であったとしてもそれが常習でなければ、単純な「脅迫罪」にとどまるのであり、その点に疑義があるのであれば、しっかりと争っていくべきでしょう。
常習性に争いがない場合や、常習性を争ったものの残念ながら常習性が認められてしまった場合、常習的脅迫罪で有罪判決が下されることになります。常習的脅迫罪には罰金刑にないため、懲役刑が科されることになります。
懲役刑が科された場合、執行猶予がつけば社会生活を送りながら更生を目指すことが許されますが、執行猶予がつかなかった場合には、釈放されないまま刑務所へと収監されてしまうことになるのです。
4、常習的脅迫事件の解決には「示談」が重要|弁護士に交渉を依頼すべき理由
常習的脅迫罪は、刑法の脅迫罪よりも厳しい刑罰が設けられている犯罪です。
穏便な解決を望むなら、被害者との示談交渉を進めることが大切です。
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(1)なぜ被害者との示談が有効なのか?
刑事事件における示談とは、犯罪の加害者と被害者が話し合いの場を設けて解決を図ることをいいます。
加害者が被害者に対して謝罪の意思を示したうえで、犯罪行為によって生じた損害や被害者が負った精神的苦痛に見合った慰謝料などを含めた示談金を支払い、被害者はこれに応じて被害届や刑事告訴を取り下げて「処罰は求めない」という宥恕(ゆうじょ)の意思を示すのが、一般的な流れです。
被害者が被害申告を取り下げて処罰を望まないという意思を示せば、警察や検察官は「双方が和解した」と評価して捜査を取りやめ、検察官が不起訴処分を下す可能性が高まります。
また、検察官が起訴に踏み切った場合でも、すでに民事的な部分で賠償が尽くされていると評価され、執行猶予が付されたり、量刑が軽い方向へと傾きやすくなったりする効果がもたらされる場合があるのです。
やはり脅迫行為で最も被害を受けるのは当然ですが被害者本人です。その被害者の方本人から、許しを得ることができれば、裁判所や検察官もこれを全く考慮しないということはなかなかできないと思われます。 -
(2)示談交渉を弁護士に依頼すべき理由
常習的脅迫事件における示談交渉は、加害者本人やその関係者ではなく、弁護士に対応を任せることが最善です。
警察に逮捕された場合、身柄を拘束されているので本人が示談交渉を進めることはできません。
また、仮に逮捕される前の段階や逮捕されず任意の在宅事件として捜査が進められている場合でも、事件の性質上、被害者は加害者に対して強い恐怖や怒りを感じているので、加害者が接触すること自体、更なる加害行為になる可能性があり妥当ではありません。
示談を申し入れるために何度も連絡を入れたり、自宅に押し掛けたりすると、すでに脅迫を受けた被害者が「また脅されている」と感じてしまい、事態が悪化する可能性は高いでしょう。
公平な第三者であり信頼性も高い弁護士に対応を任せることで、被害者の警戒心を解き、穏便な解決に向けた交渉を実現しやすくなります。
また、数多くの法的トラブルを経験している弁護士が交渉を代理することで、過去に起きた同様にケースに照らして適切な金額を提示することが可能になり、過度に不利な条件で示談を成立させてしまうおそれも回避できます。
5、まとめ
粗暴犯として前科や前歴がある人、たびたび他人を脅したりしてしまっていた人が脅迫行為をおこなった場合、「常習的脅迫罪」に問われる可能性があります。
常習的脅迫罪には「脅迫罪」よりも厳しい刑罰が定められており、有罪判決を受けると懲役が科せられる重罪であるため、容疑をかけられてしまった場合は解決に向けた対応をすぐに起こす必要があります。
そして、常習的脅迫事件を穏便に解決するためには、やはりまずは被害者との示談交渉をおこなうことが重要と思われます。
被害者との示談が成立すれば、検察官による不起訴処分や、刑事裁判における執行猶予つきの判決といった有利な処分を得られる可能性も高まります。
警察に常習的脅迫罪の容疑をかけられている方や、常習的脅迫罪にあたる行為をはたらいてしまった心あたりがある方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
脅迫事件をはじめとした刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を実現するために、全力でサポートします。
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