入管法違反とは? 罰則の種類や逮捕後の流れを解説
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神奈川県が公表している県内外国人統計資料によると、令和4年1月1日時点における神奈川県内の外国人居住者数は、22万2018人でした。そのうち、横須賀市に居住している外国人の数は6032人であるため、神奈川県全体の外国人のうち約2.7%が横須賀市に居住していることになります。
外国人が多数居住する地域では、外国人を労働者として雇用している事業者も多いでしょう。人手不足を解消するためにも、外国人労働者の雇用は有効です。ただし、もし在留資格のない外国人を雇い入れた場合には、当該外国人だけでなく事業主も処罰される可能性があります。そのため、外国人労働者を雇い入れる場合には、在留資格の有無を確認するなどして、不法就労にあたらないように注意を払わなければなりません。
本コラムでは、外国人労働者を雇い入れた場合における入管法違反について、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、入管法違反とは
まず、入管法の基礎知識と、入管法違反になり得る行為について説明します。
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(1)入管法とは
入管法とは、正式名称を「出入国管理及び難民認定法」といいます。
入管法は、日本に入国したり日本から出国したりするすべての人の出入国について、公正な管理を図るとともに、難民認定の手続きを整備することを目的とした法律です。
日本では在留資格制度が採用されており、出入国の管理は、入管法が規定する在留資格を有しない人の入国を拒否したりビザの発給を停止したりすることによって行われています。
これまでの在留資格制度では、特殊な才能や技能を有する外国人が日本で活動することによって、その才能や技術の恩恵を受けることを主な目的としていました。
そのため、単なる人手不足を補う目的で外国人労働者を受け入れるものではありませんでした。
しかし、近年では、日本国内における生産年齢人口の減少を受けて、外国人労働者を受け入れるために在留資格の拡充が行われ、技能実習生を特定技能の在留資格で受け入れることも可能になったのです。 -
(2)入管法違反になり得る行為
入管法違反となり得る行為としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- 密入国により日本に入国すること
- 在留期限が経過後も引き続き日本に滞在し続けること
- 在留資格のない外国人を雇い入れること
- 在留資格に属する活動以外を行うこと
これらの入管法違反になり得る行為の罰則については、以下で詳しく説明します。
2、入管法違反の罰則について
入管法違反となる行為およびその罰則としては、以下のようなものがあります。
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(1)不法滞在者に対する刑罰
外国人が日本に滞在するためには、入管法が規定する一定の在留資格を得る必要があります。
このような在留資格を持たずに日本に滞在している外国人のことを不法滞在者といいます。
不法滞在者には、在留期間を超えて日本に在留している「不法残留者」と不法入国して日本に在留している「不法在留者」が含まれます。
不法滞在者に対しては、3年以下の懲役もしくは禁錮または300万円以下の罰金が科されます。
また、不法滞在者は、行政処分として退去強制の対象になります。 -
(2)資格外活動に対する刑罰
外国人は、入管法が規定する一定の在留資格に属する活動範囲で活動することが認められています。
在留資格に属する活動以外の活動をする場合には、資格外活動の許可を受ける必要がありますが、資格外活動の許可を受けることなく在留資格に属する活動以外の活動を行った場合には、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは200万円以下の罰金またはこれらが併科されます。
この罰則規定によって禁錮以上の刑に処せられた場合には、行政処分として退去強制の対象になります。 -
(3)在留カードに関する刑罰
適法な在留資格を得て日本に在留する外国人(中長期在留者)に対しては、在留カードが交付されます。
この在留カードを偽造または変造した場合には、1年以上10年以下の懲役に処せられます。
また、偽造在留カードを所持していた場合には、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
在留カードの交付を受けた場合には、届出事項に変更があった場合には変更内容を届け出る義務がありますが、それを怠った場合には、20万円以下の罰金に処せられます。 -
(4)出国確認義務違反に対する刑罰
日本国内から出国するためには、入国審査官による出国確認を受ける必要があります。
入国審査官による出国確認を受けないで出国した場合には、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金またはこれらが併科されます。
3、入管法違反の罰則は日本人も受ける可能性がある
入管法違反というと、「在留資格を有しない外国人が処罰されるものだ」というイメージを持たれるかもしれません。
しかし、在留資格を有しない外国人を雇い入れた場合には、日本人であっても入管法違反による罰則の適用を受ける可能性があるのです。
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(1)不法就労助長罪とは
不法就労助長罪とは、外国人の不法就労活動を助長させた人に対して成立する犯罪です。
「不法就労」とは、正規の在留資格を持たない外国人が働いたり、在留資格以外の仕事をしたりすることなどをいいます。
そして、不法就労助長罪は、不法就労をした外国人ではなく不法就労外国人を雇い入れるなどした事業主のほうが問われる可能性のある犯罪です。
不法就労助長罪が成立した場合には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらが併科されます。
外国人を雇い入れる場合には、在留資格を有しているのか、有している場合にはどのような在留資格であるか、資格外活動許可を受けているのかなどについて、しっかりとチェックするようにしましょう。 -
(2)不法就労助長罪が成立し得るケース
外国人を雇い入れた事業主に対して、不法就労助長罪が成立し得るケースとしては、以下のケースが挙げられます。
① 不法滞在の外国人を働かせたケース
不法滞在者とは、在留期間を超えて日本に在留している「不法残留者」と不法入国して日本に在留している「不法在留者」が含まれます。
不法滞在者は、そもそも日本に滞在する資格を有していません。
そのため、このような不法滞在者を雇用してしまうと、事業主は入管法違反に問われる可能性があります。
② 就労許可を得ていない外国人を働かせたケース
在留資格を有していたとしても、就労許可を得ていない外国人については、日本国内で働くことができません。
たとえば、「短期滞在」の在留資格で日本に滞在する観光客や就労目的ではない留学生などがこれにあたります。
このような就労許可を得ていない外国人を雇用してしまった場合にも、事業主は入管法違反に問われる可能性があります。
③ 就労制限以外の仕事をさせたケース
就労許可を受けていたとしても、すべての仕事に就くことができるというわけではありません。
就労許可を受ける際には、就労可能な職種が限定されていますので、それ以外の職種に就く場合には、別途に資格外活動許可を受ける必要があります。
資格外活動許可を受けることなく、就労可能な職種以外に就かせた場合には、事業主は入管法違反に問われる可能性があるのです。
4、逮捕された場合の流れ
日本人の事業主が入管法違反の容疑で逮捕された場合には、以下のような流れで刑事手続きが進んでいきます。
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(1)逮捕
警察に逮捕された場合には、警察署の留置施設で身柄を拘束され、警察による取調べを受けることになります。
取調べでは、外国人を雇い入れた経緯や不法就労であったことの認識について厳しく取り調べられることになります。
その際には、「在留資格があると思っていた」だけでは足りず、在留カードなどによってしっかりと確認をしたかどうかが重要となります。 -
(2)勾留
逮捕された被疑者は、その後、検察に送致され検察でも取調べを受けることになります。検察官が引き続き被疑者の身柄を拘束する必要があると判断した場合には、勾留請求がなされます。
裁判所が勾留を認めた場合には、10日間の身柄拘束が続くことになります。さらに、勾留延長が認められた場合には、追加で10日間の身柄拘束が続きます。
逮捕時からカウントすると最長で23日間の身柄拘束を受ける可能性もあるため、事業主としては大きな不利益を受けることになるのです。 -
(3)起訴または不起訴
勾留期間の満期までに検察官は、事件を起訴するか不起訴にするかを判断します。
在留資格の確認を怠っていなかったような場合には、不起訴処分となり、前科が付くこともありません。
また、不起訴処分後はすぐに釈放されます。
しかし、もし起訴された場合には、刑事裁判によって罪が裁かれることになります。
また、不法就労助長罪については罰金刑も定められているため、罪を認めている場合には「略式起訴」となり、正式な裁判手続ではなく簡易な手続によって罰金刑が科される場合もあります。
5、まとめ
雇用している外国人労働者の人数が増えてくると、雇い入れる側としても在留資格の確認がおろそかになり、不法就労の状態になってしまうことがあります。
このような場合には、不法就労をした外国人だけでなくその事業主も入管法によって処罰される可能性がある点に注意してください。
「不法滞在の疑いのある外国人を雇い入れてしまった」といった問題が発生したら、弁護士に相談することが必要になります。
お早めに、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています