職務質問を受けて逮捕されるケースとは? 逮捕後の流れも解説
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令和4年4月、横須賀市内の商業施設内にある飲食店のレジからタブレット端末と充電器を盗んだ男が逮捕されました。防犯ビデオに、店を出入りする姿が撮影されており、施設内にいたところを警備員が発見し、警察に通報しました。通報を受けて駆けつけた警察官が「職務質問」をしたところ、男は、盗んだタブレットを所持しており、容疑を認めたために逮捕に至ったという事例です。
このケースのように、警察官による職務質問をきっかけとして逮捕に至るケースはめずらしくありません。では、どのような状況だと職務質問を受けてからすぐに逮捕されてしまう可能性があるのでしょうか。また、逮捕されるとどうなってしまうのでしょうか。
本コラムでは「職務質問を受けて逮捕されるケース」に注目しながら、職務質問の基本的な考え方や逮捕との関係、逮捕後の刑事手続きの流れなどをベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、職務質問の基本的な考え方
街を歩いていたり、車を運転したりしていると、警察官に呼び止められて氏名・住所、行き先や直前の行動などを質問されることがあります。
これは「職務質問」と呼ばれる警察の活動ですが、そもそも警察官が一般人に対してプライバシーに関する情報を聞き出す行為が許されるのか? といった疑問を感じるかもしれません。
ネット上では「職務質問は任意だから応じる必要はない」といった情報もありますが、果たして本当なのでしょうか?
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(1)職務質問の法的根拠
警察官職務執行法という法律には、警察官によるさまざまな活動が規定されています。
「職務質問」は、警察官職務執行法第2条において「質問」として、以下のとおり明記されています。異常な挙動や周囲の事情から合理的に判断して、何らかの罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、またはすでにおこなわれた犯罪について、もしくは犯罪がおこなわれようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる
警察官は、何か罪を犯した人、犯そうとしていると疑われる人、もしくは犯罪について何か事情を知っていそうな人などに対して質問をすることができるとされています。このように、職務質問は法的根拠にもとづいておこなわれる、正当な警察活動なのです。
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(2)基本的に応じる義務はないが拒否は難しい
警察官には、個人の生命・身体・財産の保護という目的を達するために職務質問をはじめとしたさまざまな権限が与えられています。なかには強制力を行使できる活動もありますが、職務質問はあくまでも対象者の協力を得て行使する「任意」の警察活動です。
つまり、職務質問に応じるかどうかも対象者次第であり、法的に応じる義務はありません。
ただし「任意だから応じない」という姿勢では、かえって警察官の疑念を強めてしまいます。
強く抵抗して拒否したり、合理的な説明もせずその場から立ち去るそぶりを見せたりすると、さらに執拗(しつよう)に質問を受けることになるでしょう。
2、職務質問から即逮捕されることはある?
冒頭で紹介した事例のように、職務質問に連動してそのまま「逮捕」されるケースがあります。逮捕には、3つの種類があり、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕に分かれていますが、職務質問から逮捕されるケースでは、緊急逮捕または現行犯逮捕によって逮捕されるでしょう。
では、職務質問された場合に、緊急逮捕や現行犯逮捕をされる可能性があるケースについて解説します。
- 緊急逮捕(刑事訴訟法第210条1項) 緊急逮捕は、一定の重大な罪を犯したという疑念が強いうえに、逮捕状の請求・発付を待っていると被疑者の逃亡や証拠隠滅のおそれがあるといった限定的な状況でのみ許される逮捕です。
- 現行犯逮捕(刑事訴訟法第212条1項・2項) 罪を犯している最中や罪を犯した直後に被疑者を逮捕することです。
逮捕状なしでの身柄拘束が許されていますが、直ちに逮捕状を請求し、もし発付を受けられなかった場合は被疑者を釈放しなければならないといった制約があります。
一定の重大な罪とは、「死刑または無期もしくは長期三年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪」のことをいい、具体的には詐欺罪や窃盗罪、傷害罪、強盗罪、覚醒剤取締法違反など比較的多くの罪が含まれます。一方、脅迫罪や暴行罪は緊急逮捕の対象ではありません。
たとえば、職務質問をした人物が、警察が現在捜査中の傷害事件に関する犯人であると、客観的な証拠などから強い嫌疑がある場合などで、逃亡の可能性が見受けられる場合などは、職務質問から緊急逮捕される可能性があるでしょう。
被害者や目撃者、警察官が犯行を目にしており、犯人としての取り間違いが起きにくいため、逮捕状の発付を要しません。
たとえば、職務質問を受けて、所持品の検査によって覚醒剤の所持が発覚した場合、覚醒剤取締法違反として、現行犯逮捕されることがあります。
また、職務質問から現行犯逮捕されるケースとして、公務執行妨害罪などで逮捕される可能性があるでしょう。公務執行妨害罪は、公務員が職務を執行するにあたり、公務員に対して暴行や脅迫を加えることで成立する犯罪です。
そのため、警察官が適切に職務を執行している際に、職務質問をされたからといって警察官を突き飛ばしたり、蹴ったりして暴行を加えた場合などは公務執行妨害罪として現行犯逮捕される可能性があります。 また、現行犯とはいえなくても、犯人として追いかけられている、返り血など犯罪の証跡がある、警察官に声をかけられただけで逃げ出すといった状況があれば「準現行犯」としての逮捕が可能です。
3、逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
刑事事件の被疑者として逮捕されると、どの逮捕種別であっても同じように刑事手続きを受けます。刑事手続きの流れを確認していきましょう。
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(1)逮捕による身柄拘束
警察に逮捕されると、直ちに身柄拘束を受けて警察署の留置場に身柄を置かれます。
警察官による取り調べを経たうえで、48時間以内に検察官へ身柄と捜査書類が引き継がれます。
この手続きが「送致」です。ニュースなどでは「送検」と呼ばれているので、聞いたことがある方も多いでしょう。
送致を受理した検察官は、被疑者を取り調べて24時間以内に被疑者を釈放するか、または「勾留」するかを決定しなくてはなりません。ここまでが逮捕による身柄拘束です。 -
(2)勾留による身柄拘束
検察官が「さらに身柄拘束を継続する必要がある」と判断した場合は、裁判官に対して勾留を請求します。裁判官が勾留を許可すると、10日間の身柄拘束がはじまります。
勾留が決定した被疑者の身柄は警察へと戻され、検察官による指揮のもとで警察から取り調べなどの捜査を受けるので、自宅へ帰ることも仕事に行くこともできません。
初回の勾留は10日間ですが、これだけでは捜査が遂げられなかった場合は一度に限って延長が可能です。延長の上限は10日間なので、勾留を受けると延長を含めて最大で20日間の身柄拘束が続くことになります。 -
(3)起訴されると刑事裁判が開かれる
勾留が満期を迎える日までに、検察官は「起訴」あるいは「不起訴」を決定します。
起訴された場合は、それまでは被疑者だった立場が「被告人」へと変わり、被告人としての勾留を受けるため、保釈されない限り刑事裁判が終わるまで釈放されません。
刑事裁判では、裁判官が証拠にもとづいて有罪・無罪を判断し、有罪であれば法律で定められた範囲内で適切な量刑を言い渡します。
一方で、不起訴となった場合は刑事裁判が開かれません。身柄拘束の必要もなくなるので、不起訴となった段階で釈放されます。刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。
4、職務質問を受けて逮捕されそうなら弁護士に相談を
警察官に職務質問を受けると、居住地や名前などの素性、直前の行動、これからの予定など、執拗(しつよう)に問いただされることになります。容疑が固まれば即逮捕につながってしまうケースもめずらしくないので、弁護士のサポートが欠かせません。
逮捕された被疑者には、いつでも弁護士に相談し、弁護を依頼する権利が認められています。弁護士に依頼をすることで、警察や検察の取り調べに対するアドバイスを受けることができたり、弁護士をとおして家族と連絡を取ったりすることができます。また、弁護活動によって、早期釈放や勾留の回避なども期待できます。
逮捕されてしまうと、逮捕から起訴・不起訴の判断までに最長で23日間にわたる身柄拘束を受けてしまい、さらに起訴されれば長期の身柄拘束や刑罰を受けて前科がついてしまうおそれもあります。
そのため、逮捕や刑罰による不利益を避けるためには、できるだけ早い段階で弁護士のサポートを得るのが最善です。
5、まとめ
警察官による「職務質問」は任意の警察活動なので強制力はありません。
ただし、不審点があれば徹底的に追及されることになりますし、職務質問を拒もうとする態度自体が、場合によりますが、犯罪の嫌疑を高め、捜査の必要性を高めてしまうこととなります。さらに、職務質問の結果、嫌疑の程度が相当程度高また結果、逮捕されることも考えられます。
職務質問を拒むことやその場から逃げ出すことは得策とはいえないので、素直に対応するのがよいでしょう。
もしも職務質問を受けて逮捕されしまった場合は、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスにご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、迅速に対応して解決まで徹底的にサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています