遺言執行者を変更することはできる? 必要な手続きは?
- 遺言
- 遺言執行者
- 変更

遺言に記載された内容を適切に執行するため、遺言の中に「遺言執行人」を定めておくことがあります。遺言書を作成した時点では適切な人選だったとしても、相続が発生した時点では高齢になっているなど、遺言執行人として適正を欠いている場合があります。
そのような場合に、遺言執行人を一切変更できないとなると不都合が生じますので、遺言執行人の変更は可能です。では、遺言執行者を変更するには具体的にどのような手続きが必要なのでしょうか。
今回は、遺言執行者について変更できるタイミングやその手続きについて解説します。
1、遺言執行者の変更
-
(1)遺言執行者とは?
そもそも遺言執行者は、文字通り「遺言」を「執行」する人のことを言います。遺言を執行するというのは、遺言書に書かれている内容どおりに必要な手続きをするということです。
具体的には、相続人が誰なのかを調べて特定します。相続人など簡単にわかるのではないかと思うかもしれませんが、隠し子がいる場合や相続人がわかっていても行方不明で連絡が取れないなど、簡単に相続人を特定できない場合があります。
また、相続をするためには、被相続人の財産を確定させる必要があるので、財産目録を作成しなければなりません。これも、遺言執行人の仕事です。
そして、メインの仕事としては、銀行預金の解約や各種資産の名義変更手続きがあります。不動産の場合には登記の変更が必要になります。
本来、遺言の執行は相続人自身が行えばよく、遺言執行者は必ず選任しなければならないものではありません。しかし、「子の認知」、「相続人の廃除」等の事由がある場合には、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。 -
(2)遺言執行者を選任する方法
遺言執行者を選任する方法は、
- ① 遺言書で指定する方法
- ② 死後に利害関係人が家庭裁判所に申し立てをして選任してもらう方法
の2つがあります。遺言書で指定する方法は、さらに遺言執行者を直接指定する方法と、第三者に指定してもらうよう定める場合があります。
相続人が遺言執行者になることが多いですが、誰もなり手がいない場合には、弁護士などの専門家に頼むことも可能です。なお、遺言執行者は「自然人」に限られず「法人」でもなることができます。 -
(3)遺言執行者の変更が必要なケース
遺言執行者は、前述のとおり利害関係人の申し立てにより選任する場合と遺言により選任される場合があります。利害関係人からの申し立てというのは、基本的に相続人からの申し立てなので変更になることはほとんどありません。他方、遺言者が遺言により指定した場合には、適任者とは言えない場合があるため、遺言執行者の変更がしばしば問題になります。
遺言執行者が「単に気にいらない」という理由だけで解任を求めることはできませんが、明らかな任務懈怠などがあれば解任の正当事由になります。任務懈怠というのは、遺言執行人が、遺言執行者としての仕事をしない場合や相続財産の使い込みがあった場合です。また、遺言執行者は平等に相続人を扱う必要があることから、特定の相続人に加担するなど不公正が疑われる場合や極端に高い報酬を要求する場合なども解任が認められる可能性があります。
その他、能力的に遺言執行者としてふさわしくないという場合もあります。遺言執行では、役所や金融機関での手続きが必要になりますが、手続きが複雑で遺言執行者の手に負えないという場合があるからです。遺言で遺言執行者が指定されている場合、相続発生時には遺言執行者として指定されたものが高齢で事務処理に不安があるということもあるかもしれません。
このように、遺言執行者を主観的な理由で勝手に変更することはできないものの、変更の理由がある場合に、しかるべき手続きを踏めば解任することは可能です。 -
(4)民法改正の内容
2019年7月1日から施行された改正相続法では、遺言執行者の権限が明確化されました。
① 相続人への通知義務
かつては、相続人に対して遺言内容の通知は義務ではありませんでした。しかし、遺言執行者が相続人の知らないうちに預金を解約するなどし、トラブルになることがありました。そこで、改正法では、「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」と規定しました(民法1007条2項)。
② 遺言執行者の権限の明確化
以前は、遺言執行者の権限が不明瞭で、相続人との間でトラブルが生じることがありました。そこで、改正法では、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と明確に規定しました(民法1012条1項)。また、民法1015条は、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じる。」としました。
③ 受贈者の履行請求先の明確化
以前は、遺贈の履行者について規定がなく、受遺者は誰に遺贈の履行を請求してよいかわからないという問題がありました。そこで、改正法では、「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」と規定し、遺言執行者に履行請求すべきことを明確化しました(民法1012条2項)。
④ 特定財産承継遺言の扱いの明確化
「○○を長男Aに相続させる」というように、特定の財産を特定の相続人に相続させることを「特定財産承継遺言」と言います。特定財産承継遺言がなされた場合、当然に財産の所有権が移転するとされていました。そのため、遺言執行者が登記手続きをできるのかなど、不明な点がありました。
改正法では、「遺言執行者は、当該共同相続人が民法第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。」と規定し、不動産の登記手続きや動産の引き渡しができることが明確になりました(民法1014条2項)。
また、同条3項では、特定財産承継遺言の対象が預貯金債権である場合には、「その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。」とし、遺言執行者が預貯金の解約もできることが規定されました。
⑤ 遺言執行者の復任権
以前は、遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることはできませんでした。しかし、相続人が遺言執行者に就任したような場合、面倒な手続きを弁護士などに依頼したいという場合もあります。そこで、改正法では、「遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。」と規定しました(民法1016条)。
⑥ 取引安全の保護
遺言と異なる財産処分がなされた場合、改正法は、原則として遺言と異なる財産処分を無効とした上で、「ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。」と規定し、遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を保護しました(民法1013条2項)。
ただ、債権者等の権利行使が妨げられてはならないので、「前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。」と規定しています(民法1013条3項)。
2、遺言執行者を変更できるタイミング
遺言執行者を変更できるタイミングですが、相続開始前に遺言執行者を解任することはできるかという問題があります。言執行者は相続が開始してから就任するので、就任前に解任はできませんが、変えることはできます。
遺言はいつでも変更することができるので、遺言によって指定した遺言執行人が信用できなくなった場合には、遺言を書き換えて、別の遺言執行人を指定すれば変えることは可能です。
相続開始後は、遺言執行者を「解任」することができますが、自由に変更できるわけではなく、① 任務懈怠があるか、② その他正当事由が必要になります。
任務懈怠というのは、前述のとおり名義変更の手続きを行わなかったり、財産目録を作らないなど、やるべき仕事を行ってくれない場合です。その他正当事由というのは、特定の相続人を有利に扱うなど不公正が疑われる場合です。
3、変更に必要な手続き
遺言執行者を変更するためには、解任をして新たな遺言執行者を選任することになります。解任するためには、家庭裁判所に解任の申し立てを行う必要があります。申し立てを行う事ができる利害関係人は、相続人、被相続人の債権者、受遺者などです。必要な主な書類は以下のとおりです。
- 申立書
- 申立人の戸籍謄本
- 遺言執行者の戸籍謄本
- 遺言者の戸籍(除籍)謄本
- 遺言書の写し
家庭裁判所が解任を認めれば、遺言執行者は解任されます。解任されたら、新しい遺言執行者の選任申し立てを行うことになります。選任に必要な主な書類は以下のとおりです。
- 申立書
- 遺言者の戸籍(除籍)謄本
- 遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
- 遺言書写し
- 利害関係を証する資料(戸籍謄本等)
なお、遺言執行者の適任者がいない場合には、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
4、まとめ
今回は、遺言執行者を変更する手続きについて解説してきました。遺言が作成された時点では適任者であったとしても、年数が経過することで高齢となり、遺言執行者として業務ができないということはよくあることです。
そのような時は、遺言執行者を変更することができます。万が一、新たな遺言執行者に見当がつかないという場合には、弁護士に依頼することも可能です。
ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスでは、遺言執行者に関するご相談も承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|