未支給年金は相続放棄をするとどうなる? 相続放棄における注意点
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年金を受給している人が死亡された場合、死亡した日によっては未支給年金が発生することがあります。
相続においては、被相続人(死亡された人)に借金があるなどの理由で相続放棄を検討する方もおられます。もし未支給年金が発生している場合には「相続放棄をしても未支給年金が受け取れるのか?」ということが気になるでしょう。
本コラムでは、相続放棄と未支給年金の関係や、相続放棄と未支給年金の受け取りにおける注意点について、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、未支給年金とは?
まず、未支給年金の概要と、相続における未支給年金の扱いについて解説します。
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(1)未支給年金とは
未支給年金とは、国民年金や厚生年金の受給権者が死亡した場合において、その方に支給すべき年金のうちまだ支給されていないもののことをいいます。
たとえば、老齢基礎年金の受給権者Aが7月15日に死亡したとします。
Aが最後に受け取った年金は6月15日に支給される4月分の年金と5月分の年金ですが、年金は、受給権者の死亡月の分まで支給されます。そのため、Aには6月分と7月分の年金が支給されていない状態となります。
この場合は、6月分と7月分の年金が未支給年金となるのです。 -
(2)相続における未支給年金の扱い
被相続人が死亡して遺産相続の対象になる財産のことを「相続財産」といいます。
相続財産には、被相続人名義の預貯金や不動産に有価証券などのプラスの財産のほかにも、借金や負債などのマイナスの財産が含まれます。
これに対して、遺族が固有の権利に基づいて受け取ることができる財産を「固有財産」といいます。
固有財産も相続財産と同様に被相続人が死亡したことをきっかけに受け取ることができる財産という点では共通しますが、固有財産は、遺産分割の対象には含まれないという点で相続財産とは異なります。
被相続人の未支給年金、遺族厚生年金、遺族基礎年金などは、相続財産ではなく固有財産とされているため、遺産分割の対象外となるのです。
2、相続放棄をする場合、未支給年金は受け取れる?
以下では、相続放棄をする場合に未支給年金を受け取ることはできるのかどうかについて解説します。
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(1)相続放棄をしても未支給年金は受け取れる
相続放棄とは、被相続人の遺産に関する一切の権利を放棄する手続きです。
「一切の権利」であるため、借金などのマイナスの財産だけでなく預貯金や不動産といったプラスの財産も受け取ることができなくなります。
ただし、相続放棄によって受け取ることができなくなるのは、あくまでも相続財産に限られます。
固有財産については、相続放棄をしたとしても受け取ることができます。
したがって、固有財産の一種である未支給年金も、相続放棄をしたとしても受け取ることができるのです。 -
(2)未支給年金を受け取れる遺族の範囲
未支給年金を受け取れる遺族の範囲は、以下のように定められています。
- ① 配偶者
- ② 子ども
- ③ 父母
- ④ 孫
- ⑤ 祖父母
- ⑥ 兄弟姉妹
- ⑦ その他①~⑥以外の3親等内の親族
ただし、上記に該当する人であっても、受給権者の死亡当時、受給権者と生計を同じくしていた人でなければ未支給年金を受け取ることはできません。
なお、未支給年金を受け取れる遺族には順位が付されており、上記の①~⑦の順番で優先されていきます。
3、相続放棄と未支給年金の受け取りにおける注意点
相続放棄をする場合および未支給年金を受け取る場合には、以下の点に注意してください。
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(1)相続放棄をすると相続財産を一切相続できなくなる
相続放棄をすることによって、被相続人の一切の遺産を相続する権利を失ってしまいます。相続放棄には被相続人の借金を相続するという負担を回避できるというメリットがあるため、被相続人に多額の借金がある場合などに、主に選択される方法です。
しかし、相続放棄が受理された後は、相続放棄の撤回は認められません。
後日になって被相続人に多額の財産があることが判明したとしても、遺産を相続することができなくなってしまうのです。
そのため、相続放棄をするかどうかは、被相続人の財産をしっかり調査してから判断するようにしましょう。 -
(2)相続放棄や未支給年金の請求には期限がある
相続放棄をする場合には、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述をしなければなりません。これを「熟慮期間」といい、熟慮期間が経過した後には相続放棄ができなくなってしまいます。
そのため、早めに手続きを進めることが重要です。
また、未支給年金にも時効があり、受給権者の年金支払い日の翌月の初日から起算して5年以内に請求をしなければなりません。
ただし、実務上は、やむを得ない事情によって時効完成前に請求することができなかった場合、年金事務所にその理由を書面で申し立てることによって時効を消滅させないという扱いがとられています。 -
(3)健康保険などの還付金を受け取ると相続放棄ができなくなる
未支給年金については、固有財産とされていますので、未支給年金を受け取ったとしても相続放棄に影響が生じることはありません。
しかし、健康保険や介護保険の還付金については、被相続人の相続財産に含まれると考えられているため、安易にこれらの還付金を受け取ってしまうと法定単純承認事由である「相続財産の処分」に該当し、相続放棄ができなくなってしまいます。
還付金を受け取ることで相続放棄に影響が生じるかどうか判断が難しい場合には、専門家である弁護士に相談をしてから対応するようにしましょう。 -
(4)繰り下げ受給でも未支給年金は発生する
老齢基礎(厚生)年金は、65歳時点で受け取らず66歳から75歳までの間で繰り下げて年金を受け取ることができます。
これを「年金の繰り下げ受給」といいます。
繰り下げ受給をすることによって、一定の増額率で年金が加算されますので本来受け取ることができる年金よりも多くの年金を受け取ることができるようになるのです。
年金の繰り下げ受給を選択していた受給権者が死亡した場合の未支給年金の扱いについては、例を挙げながら解説します。(例)
老齢基礎(厚生)年金を70歳から受給するつもりであったAが69歳で死亡したとします。
この場合、Aの遺族は、Aが65歳から69歳までにもらえるはずであった年金を未支給年金として請求することができます。
ただし、この場合の未支給年金は、繰り下げ受給によって増額された年金ではなく、本来の年金額となる点に注意してください。
4、相続放棄など遺産相続のお悩みは弁護士に相談を
相続放棄など遺産相続に関してお悩みの方は、弁護士に相談することをご検討ください
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(1)相続放棄をする場合の注意点をアドバイスしてもらえる
被相続人に多額の借金があることが判明した場合、相続放棄を選択する方が多いと思います。
しかし、相続放棄をする場合には、熟慮期間内に申述をすること以外にも、法定単純承認事由に該当しないようにするということにも注意しなければいけません。
前述したとおり、健康保険や介護保険の還付金を受け取ってしまうと単純承認をしたものとして相続放棄ができなくなります。
また、被相続人の預貯金から相続債務の支払いをしてしまったり、遺産である建物を取り壊したりしてしまった場合にも、相続放棄ができなくなってしまうのです。
法定単純承認事由に該当するかどうかを判断するためには、法律の専門知識が不可欠です。
自分で判断する前に、弁護士に相談しましょう。 -
(2)相続放棄の要否を判断してもらえる
相続放棄をするかどうかを判断する際の主なポイントは、借金などのマイナスの財産がプラスの財産を上回っているかどうかという点です。
そして、プラスの財産とマイナスの財産の内訳を把握するためには、被相続人の相続財産を正確に調査する必要があります。
弁護士はどのような機関に照会をかければ遺産の内容が明らかになるのかということを熟知しているため、相続人が把握していないような遺産について明らかにすることができます。
相続財産を正確に調査することは一般の方には困難であるため、財産調査は専門家である弁護士に任せましょう。 -
(3)遺産相続の争いを解決してくれる
相続放棄ではなく遺産を相続することになった場合には、相続人による遺産分割協議を進めていかなければなりません。
しかし、遺産分割においては各相続人の利害が対立するため、遺産の分け方をめぐってトラブルが生じることもあります。
遺産分割を適切に進行するためには、相続財産の評価、遺産分割方法の決定、特別受益や寄与分の考慮などに関する専門的な知識や経験が必要になってきます。
とくに相続人同士で争いが生じているような場合には、速やかに弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
未支給年金は、相続財産ではなく固有財産として扱われるため、未支給年金を受け取ったとしても相続放棄に影響は生じません。
しかし、健康保険や介護保険の還付金などを受け取ってしまった場合には相続放棄ができなくなってしまいます。
相続放棄を検討されている場合、受け取っていいものとそうではないものを適切に判断にするためにも、早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。
遺産相続に関して悩みを抱かれている方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています