相続放棄でやってはいけないこととは? 押さえておきたいポイント

2023年03月20日
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相続放棄でやってはいけないこととは? 押さえておきたいポイント

2021年度に神奈川県横須賀市に寄せられた法律相談・市民生活相談は5644件でした。そのうち相続・贈与に関する相談がもっとも多く、1352件となっています。

亡くなった被相続人に借金がある場合、相続人は、相続放棄をすれば借金の相続を回避できます。ただし、相続財産を処分した場合などには「法定単純承認」が成立し、相続放棄が認められなくなる可能性があるので注意が必要です。

相続放棄をお考えの際には、弁護士のアドバイスを踏まえて、以下の行為は避けるようにしましょう。今回は、相続放棄をする際にやってはいけないことについて、相続人が注意すべきポイントをベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「市民相談この一年」(令和3年度)(横須賀市))

1、相続放棄を考えている際、やってはいけないことがある

相続放棄は、被相続人に借金があり、相続財産全体の価値がマイナスである場合などに検討すべき手続きです。相続放棄をすれば、債務を含めた一切の相続財産を承継せずに済みます。

ただし、相続放棄をする可能性がある場合は、「法定単純承認」といわれる行為をしてはいけません。法定単純承認が成立すると、相続放棄が認められなくなってしまうからです(民法第921条)。

法定単純承認は、相続放棄と矛盾する行動をとった場合や、相続放棄を期間内に行わない場合などの場合に成立します。相続放棄を検討している方は、弁護士のアドバイスを踏まえて、法定単純承認にあたる行為をしないように十分ご注意ください。

2、法定単純承認が成立するケースの具体例

法定単純承認が成立するのは、以下に挙げる場合です。

  • 相続財産を処分した場合
  • 相続開始を知ったときから3か月が経過した場合
  • 相続財産を隠した場合、私的に消費した場合


  1. (1)相続財産を処分した場合|財産の売却などは控えるべき

    「相続人が相続財産の全部または一部を処分した」場合には、原則として、法定単純承認が成立します(民法第921条第1号)

    わかりやすい例でいうと、被相続人が有していた不動産等の相続財産を、相続人が売却してしまうケースが挙げられます。このような行為は、相続財産の処分権限がある、すなわち、自分が相続するということを前提に行われている行為といえます。したがって、このような相続財産を売却してしまうような行為は、相続財産の処分にあたり、相続放棄ができなくなります。

    また、売却という行為は、法律的な処分行為にあたりますが、物理的に被相続人が有していた相続財産を破壊する等の行為も「処分」行為にあたり、相続放棄ができなくなってしまいます

    上記のように、相続財産を売却する行為や破壊する行為が処分行為に該当することはわかりやすいと思います。
    他方で、処分行為に該当するか否か、微妙な行為もあります。
    たとえば、相続財産から葬儀費用を支出する行為は基本的に法定単純承認にはあたりませんが、葬儀の規模や支出金額などによっては法定単純承認に該当し得るので注意が必要です。

    また、被相続人が住んでいた家の賃貸借契約を解約する行為も、相続財産の処分として法定単純承認に該当する可能性があります。「賃借権」という権利を処分したと扱われる可能性があるためです。
    被相続人の賃貸借契約の解約は、相続放棄に関する検討が済んだ後で、相続放棄をしない相続人が行うのが無難でしょう。
    もし相続人全員が相続放棄をする場合は、解約手続きを行う必要はありません(その後の対応は、相続財産管理人が引き継ぎます)。

    なお、相続人の行った行為が、保存行為または短期賃貸借に該当する場合には、例外的に法定単純承認は成立しません(同号ただし書き)。

    保存行為の例としては、相続債権者に対する、弁済期が到来した相続債務(水道光熱費など)の支払いや、緊急を要する建物の修繕費用の支出などが挙げられます。

  2. (2)相続開始を知ったときから3か月が経過した場合

    相続放棄は原則として、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に行う必要があります(民法第915条第1項)
    この期間を「熟慮期間」といいます。

    熟慮期間を経過した場合は法定単純承認が成立し、原則としてその後の相続放棄は認められません(民法第921条第2号)。

    ただし、熟慮期間経過後の相続放棄については、実務上例外が認められることがあります。特に、熟慮期間経過後に相続債務の存在が判明し、その後3か月以内に手続きを行った場合は、相続放棄が認められるケースがあります。裁判所もある程度柔軟な対応をとっているといえるでしょう。

    とはいえ、早期に手続きを行うほうが確実であるため、相続放棄の検討および判断は早めに行うことをおすすめいたします。

  3. (3)相続財産を隠した場合、私的に消費した場合

    相続人が、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私的に消費し、または悪意で相続財産目録中に記載しなかった場合には、原則として法定単純承認が成立します(民法第921条第3号)

    このような行為は、相続放棄と矛盾していることに加えて、他の相続人に迷惑をかける悪質なものであるため、制裁的に相続放棄が認められなくなるのです。すでに相続放棄の手続きが完了している場合でも、上記の行為をした場合には、相続放棄が無効となってしまうのでご注意ください。

    ただし、相続放棄によって、相続権が移り相続人となった者が相続の承認をした後は、相続放棄が無効となることはありません(同号ただし書き)。

    (例)
    被相続人の唯一の子どもであるAが相続放棄をした結果、被相続人の弟であるBが相続人となり、相続を単純承認した。
    その後、Aが相続財産を私的に消費した。
    →Aの相続放棄は無効にならない(Bがすでに相続を単純承認しているため)

3、相続放棄の可否に影響しない行為の例

前述のとおり、相続財産を処分する行為については、原則として法定単純承認が成立します。

その一方で、被相続人の死亡をきっかけに得た財産であっても、相続財産に該当しないものがあります。このような財産については、処分しても法定単純承認は成立せず、相続放棄の可否に影響は生じません。

具体的には、以下の行為については法定単純承認が成立せず、引き続き相続放棄をすることができます。

  1. (1)生命保険金・死亡退職金・未支給年金・遺族年金を受け取る

    以下の金銭については、いずれも受取人の固有財産と解されており、相続財産には含まれません。

    ① 生命保険金(死亡保険金)
    被相続人を被保険者とする生命保険に加入していた場合に、保険会社から受取人に対して支払われます。

    ② 死亡退職金
    被相続人の家族の生活保障などを目的として、勤務先の規定に応じて支払われます。

    ③ 未支給年金
    被相続人が死亡時点で受け取っていない公的年金です。
    被相続人の死亡当時、被相続人と生計を同じくしていた親族のうち、支給順位が最上位の者が受け取れます。
    (参考:「年金を受けている方が亡くなったとき」(日本年金機構))

    ④ 遺族年金
    被相続人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取れます。
    (参考:「遺族年金」(日本年金機構))


    したがって、上記の金銭を受け取った方が当該金銭を使ってしまっても、相続放棄をすることはできます

  2. (2)祭祀(さいし)財産を処分する

    「祭祀(さいし)財産」と呼ばれる系譜・祭具・墳墓は、慣習に従って祭祀(さいし)主宰者が承継するものであり、相続財産には含まれないと解されています(民法第897条)。
    したがって、祭祀(さいし)主宰者として祭祀(さいし)財産を処分した場合でも、相続放棄をすることはできます。

    祭祀(さいし)財産を処分する行為の具体例は、いわゆる「墓じまい」などです。

4、相続放棄を行う際の注意点

相続放棄をする際には、特に以下の各点にご留意ください。

  1. (1)相続放棄は原則として3か月以内|早めのご対応を

    相続放棄をする場合、「相続の開始から3か月以内」という熟慮期間の制限が非常に重要です。

    熟慮期間を経過しても相続放棄が認められる場合はあるものの、煩雑な対応が求められるうえに確実ではありません。そのため、弁護士のサポートを受けて迅速に対応することをおすすめいたします。

  2. (2)生前の相続放棄はできない|死後に家庭裁判所への申述が必要

    被相続人の生前の段階では、相続放棄はできません。相続放棄は、あくまでも被相続人の死亡後に、家庭裁判所に対して申述をすることでしか認められないからです。

    相続放棄を検討している場合は、民法所定の必要な手続きを事前によくご確認ください。

  3. (3)相続放棄は撤回できない|十分なご検討を

    家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行うと、その意思表示を撤回することはできません。

    たとえば、後から相続財産の存在が判明し、その財産を相続したいと思っても、相続放棄をしているとそれはかなわないので注意が必要です。相続放棄を検討する場合は、相続財産の調査・把握・評価をきちんと行ったうえで、後悔がないように選択・判断する必要があります

5、まとめ

相続放棄の可能性がある場合には、法定単純承認に該当する行為をしないように気を付けなければなりません。やっていいこと・やってはいけないことの区別が難しい場合には、弁護士のアドバイスを求めることをおすすめいたします。

ベリーベスト法律事務所は、相続放棄を含めて、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。ご家庭のご状況やお客さまのご希望に応じて、最善の解決を実現できるようにサポートいたします。相続放棄手続きに関するご相談・ご依頼は、ベリーベスト法律事務所にお任せください。

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