親もしくは相続人が認知症になることで相続に与える影響や事前対策

2024年10月16日
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親もしくは相続人が認知症になることで相続に与える影響や事前対策

高齢者人口の増加により、被相続人だけでなく相続人も高齢になるケースが増えてきました。こうしたケースでは、加齢による判断能力の低下で、相続時に適切な判断ができない可能性があります。

特に、認知症になってしまうとさまざまな行為が制約されてしまいますので、事前にしっかりと相続対策を行っておくことが大切です。また、遺産を相続する相続人が認知症になってしまうと、そのままでは遺産相続の手続きを進めることができません。被相続人だけでなく相続人が認知症になった場合の対策もしっかりと理解しておきましょう。

今回は、被相続人(親)もしくは相続人が認知症になった場合の相続への影響と対策について、ベリーベスト法律事務所横須賀オフィスの弁護士が解説します。


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1、被相続人(親)が認知症になった場合のリスク

親が認知症になると、法律行為をする判断能力がないとみなされるリスクがあります。判断能力がない状態で行われた法律行為は、すべて無効になるため注意が必要です

以下では、被相続人(親)が認知症になってしまった場合に発生する4つのリスクについて解説します。

  1. (1)預貯金の管理ができない

    親の預貯金口座の解約、引き出しなどは、判断能力のある本人により行われなければなりません。そのため、親が認知症になってしまうと、預貯金の管理ができなくなる可能性があります。

    親の収入や年金で生活している人がいる場合、預貯金の管理ができなくなると生活への影響も非常に大きなものとなります。

  2. (2)不動産の処分ができない

    不動産の処分も法律行為の一種です。そのため、有効に不動産の処分を行うためには本人に判断能力があることが前提となります。

    親が認知症になってしまうと判断能力に疑いが生じてしまいますので、そのままでは不動産の処分をすることができません。親名義の不動産が誰にも利用されずに放置された状態が続くと、老朽化による倒壊のリスクや管理の負担が生じてしまいます。

  3. (3)遺言の作成ができない

    遺言書を作成する際には、遺言能力が必要になります。遺言能力とは、遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識することができる能力をいいます。

    親が認知症になり判断能力が失われた状態だと、遺言能力も欠如することになりますので、有効な遺言書を作成することができません。将来の相続対策をしようとしても、親が認知症になった後では、有効な対策を講じることができなくなってしまいます。

  4. (4)作成した遺言の有効性が問われる

    親が認知症の疑いがある状態で作成された遺言がある場合、遺言書の有効性に疑義が生じることになりますので、相続人により遺言無効確認の訴えが提起されるリスクがあります。

    せっかく遺言書を作成したとしても、無効になってしまえば遺言者本人の希望をかなえることができません。それだけでなく、大切な家族を遺言の有効性に関する争いに巻き込む事態にもなってしまいます。

2、被相続人が認知症になる前にできる生前対策

被相続人が認知症になってしまうと、前述のようにさまざまなリスクが生じます。そのため、被相続人が認知症になる前に以下のような生前対策を講じておくことが大切です。

  1. (1)任意後見人制度

    任意後見制度とは、認知症などが原因で将来判断能力が低下する場合に備えて、あらかじめ本人の財産管理を担当する人を決めることができる制度です。

    任意後見制度を利用していれば、親が認知症になり判断能力が失われてしまったとしても、任意後見人による財産管理や処分が可能になります。任意後見制度は、成年後見制度とは異なり、本人の意思で財産の管理を行う任意後見人を指定することができる点に特徴があります。

  2. (2)遺言書の作成

    遺言書の作成は、生前にできるもっとも一般的な相続対策のひとつです。遺言書を作成しておくことで、遺産を相続させたい人、相続させる財産や割合などを自由に指定することができますので、ご自身が希望する遺産相続を実現することができます。

    また、将来相続人による相続争いが予想されるケースでは、遺言書を作成しておくことで相続人による遺産分割協議が不要になりますので、相続争いを回避することができます。

  3. (3)家族信託

    家族信託とは、不動産や預貯金などの資産を信頼できる家族に託して、特定の目的に従ってその管理や処分を任せることができる制度です。任意後見制度や法定後見制度に比べて柔軟な財産管理ができるというのが家族信託の特徴です。

    元気なうちから家族信託を利用していれば、親(委託者)が認知症になったとしても、受託者により親の財産の管理や処分ができますので、親の財産管理・処分で困ることはありません。

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3、相続人が認知症の場合の注意点

相続人が認知症になってしまった場合、遺産相続の場面では、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)認知症の人は遺産分割協議に参加できない

    被相続人が遺言書を作成せずに亡くなった場合、被相続人の遺産は、相続人による遺産分割協議で分けることになります。しかし、相続人に認知症の人がいる場合、そのままでは遺産分割協議に参加することができません。

    遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の同意が必要になりますので、認知症の相続人がいるといつまでも遺産相続の手続きを終えることができなくなってしまいます。

  2. (2)認知症の人は相続放棄ができない

    認知症の相続人は、遺産分割協議に参加できないだけでなく、相続放棄も行うことができません。被相続人が多額の借金をしていた場合、借金も相続財産に含まれますので、借金の相続を回避するには相続放棄の手続きが必要になります。

    相続放棄は、相続開始を知ったときから3か月以内に行わなければなりませんので、認知症になってしまうと、相続放棄のタイミングを逃してしまい、多額の借金を相続してしまうリスクがあります

  3. (3)他の相続人が代筆する行為は違法

    認知症の相続人がいるといつまでも遺産分割協議がまとまらないからといって、他の相続人が本人名で署名押印することは認められません。勝手に署名押印する行為は、私文書偽造罪に該当する可能性もあり、刑事罰が科されるリスクがありますので注意が必要です。

4、相続人に認知症の人がいる場合には成年後見制度を利用する

相続人に認知症の人がいる場合、そのままでは遺産相続の手続きを進めることができません。このよう場合には、成年後見制度を利用する必要があります。

  1. (1)成年後見制度の利用方法

    成年後見制度とは、判断能力が低下した本人に代わって、財産管理や身上監護などを行う人を選任することができる制度です。相続人に認知症の人がいる場合、成年後見人を選任することで、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することができます。

    成年後見制度の利用方法は、以下のような流れになります。

    ① 家庭裁判所に申立て
    成年後見制度の利用を希望する場合には、管轄の家庭裁判所に以下の必要書類を提出して申立てを行います。

    • 申立書、財産目録、収支予定表
    • 診断書
    • 登記されていないことの証明書
    • 戸籍謄本
    • 住民票または戸籍附票
    • 成年後見等の登記がされていないことの証明書
    • 本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写しなど)


    家庭裁判所によっては「後見人候補者の同意書」「親族関係図」などを求められることがあります。申立てを行う前には管轄の家庭裁判所のホームページなどから、事前に確認することをおすすめします

    ② 家庭裁判所の審判により成年後見人が選任
    家庭裁判所では、申立て内容や添付資料などを踏まえて、後見開始の要件を満たしているかどうかを判断します。後見開始の要件を満たしていると判断すると、裁判所は、審判により成年後見人の選任を行います。

  2. (2)成年後見制度を利用する際の注意点

    成年後見制度を利用する際には、以下の点に注意が必要です。

    ① 親族以外の第三者が選任される可能性がある
    成年後見人の選任申立ての際には、申立人において成年後見人の候補者を立てることができます。しかし、誰を後見人に選任するかは裁判所が自由に決定することができますので、申立人が候補者を立てたとしてもそれに拘束されることはありません。

    成年後見人選任後に遺産分割などの法律行為を予定している場合には、専門的な知識が必要になりますので、親族ではなく弁護士や司法書士といった第三者の専門職後見人が選任されるケースも少なくありません。

    このように、成年後見制度では、親族以外の第三者が選任される可能性がある点に注意が必要です

    ② 遺産分割協議が終わったからといって成年後見人を辞任できない
    相続人が認知症になっている場合、遺産分割協議を成立させるために成年後見人の選任を行うことになります。成年後見人が選任されれば、遺産分割協議を成立させることができますので、それで成年後見人を選任した目的は達成されます。

    しかし、成年後見制度は判断能力が不十分な本人を保護する制度ですので、当初の目的である遺産分割協議が成立したからといって、成年後見人を辞任することはできません。本人が亡くなるまで成年後見人の任務は続きますので注意が必要です

5、まとめ

親が認知症になると有効な相続対策を講じることができませんので、元気なうちから早めに相続対策を考えていかなければなりません。どのような相続対策が必要であるかは、個別具体的な状況によって異なり、有効な対策を講じるには法的知識が不可欠となりますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。

相続対策は早めの対策が肝要です。相続に関する多様なリスクを回避したいとお考えの場合は、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています