「介護」が原因の相続トラブル|押さえておくべき注意点と対処法
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横須賀市が公表している統計資料によると、令和5年(2023年)4月1日時点の老年人口(65歳以上)は12万5227人であり、総人口に占める割合は32・48%となっています。横須賀市の高齢者人口はほぼ横ばいに推移していますが、生産年齢人口の減少に伴い、高齢化率が徐々に高まっている状況です。
高齢になった親族の介護に多くの時間を費やす人も増えてきています。人がいずれ他界するものである以上、相続という問題はだれしもが避けることのできない問題ですが、いざ相続が開始されると、従前の介護をどう評価するかということでトラブルが生じることも増えていきます。
介護に尽力した相続人は「寄与分」という制度を利用することで、他の相続人よりも多くの遺産を受け取れる可能性があります。公平な遺産分割を実現するためにも、寄与分をはじめとして、遺産相続に関する制度をしっかりと理解しておくことが大切です。
本コラムでは、介護が原因の相続トラブルについて押さえておくべき注意点や対処法を、ベリーベスト法律事務所 横須賀オフィスの弁護士が解説します。
1、「介護」の問題が招く相続トラブル例
まず、介護が原因で発生する相続トラブルの例を紹介します。
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(1)相続分に対する不満がある
献身的に被相続人の介護に尽力してきたにもかかわらず、親の介護をまったくしてこなかった兄弟と同じ割合で遺産分割することになった場合、介護をしていた人としては「長年の尽力が報われない」と感じることもあるでしょう。
「介護で苦労してきたぶん、多く遺産をもらいたい」という感情を抱くのは自然なことです。そのような感情を無視して、他の兄弟と同じ法定相続分での遺産分割を求められてしまうと、それを原因として相続トラブルが発生する可能性があります。 -
(2)兄弟仲が険悪で遺産分割協議がまとまらない
特定の相続人にだけ親の介護を押し付けている状況だと、介護を押し付けられた相続人としては不満がたまり、他の相続人に対して悪感情を抱いてしまう可能性があります。
元々は仲のよかった兄弟でも、親の介護をきっかけとして、関係性が悪化してしまうこともあるのです。
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立させることはできません。
兄弟の関係性が悪化して話し合いができない状態になってしまうと、遺産分割協議がまとまらず、相続財産を処理できなくなってしまう可能性があります。 -
(3)遺言書で介護をしてこなかった特定の人が優遇されている
遺言書は、相続トラブルの回避に有効な手段となります。
しかし、遺言書の内容によっては、新たな相続トラブルを発生させる原因になることもあるのです。
たとえば、遺言書の内容が、介護に尽力した相続人により多くの遺産を残すものであれば、相続人間で不満が生じることも少ないでしょう。
しかし、他方で、遺言書の内容が、介護をしてこなかった特定の相続人を優遇するものであった場合、介護で苦労した相続人はもちろん、他の相続人からも納得できないと不満が出てしまい、相続トラブルに発展するおそれがあります。
2、介護した人は相続財産を多めに受け取れる?
以下では、介護をした人が相続財産を多めに受け取ることができるかについて解説します。
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(1)寄与分を主張することで相続財産を多めにもらえる可能性がある
「寄与分」とは、被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人がいる場合に、その相続人が他の相続人よりも遺産を多く分けてもらえる制度です。
相続人には法律上「法定相続分」という遺産の取得割合が存在しますが、被相続人の介護に尽力してきた相続人がいる場合には、法定相続分どおりに遺産を分けてしまうと不公平な結果になることがあります。
そのような場合には寄与分を主張することにより、相続財産を多めにもらえる可能性があるのです -
(2)相続人以外の親族も「特別寄与料」を請求できる
寄与分は、法定相続人に求められている制度であるため、法定相続人以外の人が被相続人の介護などに尽力したとしても、寄与分を主張することはできません。
しかし、民法改正により、令和元年(2019年)7月1日から新たに「特別寄与料」という制度が導入され、法定相続人以外の人であっても寄与度に応じた金銭を請求することができるようになりました。
これにより、夫の両親の介護を担っていた妻も、遺産分割において介護の負担に応じた金銭を請求することができるようになったのです。
なお、特別寄与料を請求するためには、以下の要件を満たす必要があります。- 被相続人の親族であること(法定相続人は除く)
- 被相続人に対して、無償で療養看護その他の労務提供をしたこと
- 被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたこと
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(3)寄与分や特別寄与料を認めてもらうのは容易ではない
寄与分や特別寄与料は、寄与行為があれば必ず認められるというわけではなく、まずは遺産分割協議で他の相続人に認めてもらう必要があります。
他の相続人としては、寄与分が認められると自分の取り分が減ることになってしまうので、簡単には認めてはくれない可能性が高いでしょう。
話し合いでは解決できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをすることになります。
そして、寄与分を認めてもらうには、親族として通常期待される程度を超えた介護をしていたことを証拠により証明していく必要があります。
このように、寄与分や特別寄与料を認めてもらうのは容易ではないことを認識しておいてください。
3、寄与分の計算方法
以下では、具体的な寄与行為のタイプごとに、寄与分の金額を計算する方法を解説します。
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(1)家業従事型
「家業従事型」とは、被相続人の事業に関する労務提供をすることで、相続財産の維持・増加に貢献するタイプの寄与行為です。
たとえば、「被相続人が行っている農業に従事する」などは家業従事型の寄与行為にあたります。
家業従事型の寄与行為をした場合の寄与分の金額の一般的な計算方法は、下記の通りです。本来もらえるはずの年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数 -
(2)金銭等出資型
「金銭等出資型」とは、被相続人の事業に関する財産上の給付をすることで、相続財産の維持・増加に貢献するタイプの寄与行為です。
「被相続人が事業を始める際にまとまったお金を援助してあげた」などが、金銭等出資型の寄与行為にあたります。
金銭等出資型の寄与行為をした場合の寄与分の金額は、出資した財産の内容に応じて、以下のような計算式で計算します。- 金銭を贈与した場合:贈与した金額×貨幣価値変動率×裁量的割合
- 不動産を贈与した場合:相続開始時の不動産評価額×裁量的割合
- 金銭融資の場合:利息相当額×裁量的割合
- 不動産を無償で貸していた場合:相続開始時の賃料相当額×使用年数×裁量的割合
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(3)療養看護型
「療養看護型」とは、相続人が被相続人の療養看護を行ったことで、本来必要だった介護・看護費用などの支出を免れ、相続財産の維持・増加に貢献するタイプの寄与行為です。
この場合の療養看護には、被相続人と相続人との身分関係から通常期待される程度以上の看護が必要になります。
たとえば、「通常の生活を送りながら、手が空いたときに介護をしていた」というだけでは寄与行為とはいえませんが「仕事にでることなく介護に専念していた」という場合には寄与分が認められます。
療養看護型の寄与行為をした場合の寄与分の計算式は、下記の通りです。療養看護の報酬相当額×介護日数×裁量的割合 -
(4)扶養型
扶養型とは、相続人が被相続人の生活費などを負担することで、被相続人が本来支出するはずだった生活費の支出を免れ、相続財産の維持・増加に貢献するタイプの寄与行為です。
たとえば、「被相続人と同居して衣食住の面倒をみていた」という場合や「被相続人に生活費などの仕送りをしていた」という場合には、扶養型の寄与行為にあたります。
扶養型の寄与行為をした場合の寄与分の計算式は、下記の通りです。負担扶養料×裁量的割合 -
(5)財産管理型
「財産管理型」とは、相続人が被相続人の財産管理をすることにより、相続財産の維持や増加に貢献するタイプの寄与行為です。
たとえば、「相続人が被相続人の不動産管理をしたことにより、不動産管理会社への費用支払いを免れた」という場合には、財産管理型の寄与行為にあたります。
扶養型の寄与行為をした場合の寄与分の計算式は、下記の通りです。財産管理を第三者に委任した場合の報酬額×裁量的割合
4、介護が原因の相続トラブルは弁護士に相談を
介護が原因で発生した相続トラブルが発生してしまったら、弁護士に相談しましょう
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(1)寄与分が認められるか否かも含め、金額を正確に算定することができる
被相続人の介護などに尽力した場合には、「療養看護型」の寄与行為に該当して、寄与分を請求できる可能性があります。
しかし、療養看護型の寄与行為を主張する場合には、「介護を行った」という事実や介護の内容(被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与である必要があります)、介護にかかった日数などを、証拠に基づいて立証利する必要があります。
この点、寄与分の認定にあたっては、各行為類型ごとに一定の絞りがかけられています。
たとえば療養看護型の寄与分が認められるためには、ただ単純に面倒をみていたというだけでは足りず、その介護が、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であったことなどまで主張を行っていく必要があります。
このような主張を行っていくにあたっては、どのような状態であればその要件を満たすのか、それを証明するためにどのような証拠が必要となるのか、法的な判断が必要となるため、専門家へご相談をいただく必要性が高いと思われます。
寄与分の立証や計算は、非常に複雑なものになっているため、正確に寄与分を計算するためには、専門家である弁護士のサポートを受けることをおすすめします。 -
(2)相続人との交渉や遺産分割調停・審判を任せることができる
寄与分を主張する場合には、まずは、相続人との話し合い(遺産分割協議)により寄与分の支払いを求めていくことになります。
しかし、他の相続人からすると寄与分が認められると自分の取り分が減ってしまうことになるため、容易には認めてもらえない可能性もあります。
当事者同士で話し合うとどうしても互いに感情的になってしまい、合意を成立させるのが難しくなる可能性があるため、交渉は弁護士に任せることをおすすめします。
また、弁護士は相続人に代わって遺産分割協議に参加することができるだけでなく、話し合いで解決できない場合には遺産分割調停や審判についても対応することができます。
遺産分割調停、審判では、家庭裁判所にて、調停委員を間にいれ協議をすることになります。当事者間での意向がまとまらなければ、審判となりますが、審判では裁判所が主張と証拠を吟味し、寄与分が認められるか否か、認められるとしてその金額がいくらかの判断が下されます。
このような裁判手続きでは、法的な主張立証を適切に行っていく必要が高く、相続事件は提出する書類も細かく大量になりますので、代理人として弁護士を立てる必要性は高くなるものと思われます。
5、まとめ
被相続人の介護を一部の相続人が負担していたような場合には、法定相続分どおりでの遺産分割では不公平な結果になることがあります。
しかし、自分の生活を犠牲にして被相続人の介護に尽力していたような場合には、寄与分を主張することにより、法定相続分を上回る遺産を相続できる可能性があります。
ただし、寄与分は簡単には認めてもらえないものでもあり、相続人間での争いも複雑化するケースが多いと言えます。これら負担を極力軽減し、適切な結果を得るためには専門家である弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
「自分が介護に尽力してきたことが遺産相続に反映されず、報われない気持ちを抱いている」という方など、介護に関する相続トラブルにお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
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